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第1章 領国主の帰還

 テッサはしばらく考えた。

「では、玄街ヴィザーツはガーランド・ヴィザーツと同じコードを使っていると?」

マイヨールは首を振った。

「いいえ。ガーランドとは全く違うコードを編み出しています。系統が違うため、私たちは玄街コードを解析し、危険性を調べています。玄街はテロ組織です。殺人を始め、あらゆる犯罪に加え、各地に争乱の種を撒く。ガーランドとヴィザーツ屋敷に直接攻撃を仕掛けたこともあります」


 テッサの両眼から、とめどなく涙がこぼれた。

「ローザは……本当はグウィネス。なら、私は我が領国に災いを招くところだったのか。この世はなんてこと……なんて……」


 5月初めの明るい朝、カレナードはテネ城に降りた。

 ラジオの実況放送がミセンキッタ領国と周辺にその様を伝え、各領国の新聞記者たちは盛んにフラッシュを焚いた。領国営ラジオの声は、世紀の大事に熱を帯びた。


「テネ城の修復は進み、北翼はようやく新しい壁になったところです。議事堂前広場は、テッサ・ララークノさまの御帰還を一目見ようと市民が押し寄せております。緋毛氈が敷かれ、テネ警察隊と新ヴィザーツ屋敷警護隊の整列が美々しく整い、領国章の青と黄の旗が春風に舞うさまは、先日の玄街掃討作戦を忘れさせるほどであります。

 玄街の脅威が領国中枢に及んだ危機から一転、ガーランド女王の采配による秩序回復は、まことに目を見張ります。さらに領国主を玄街から護るため、ガーランドより女王代理人の派遣が発表されました。まもなくテッサさまと共に、この広場に降り立ちます。


 領国各地の皆さま、聞こえますでしょうか。観衆のどよめき、領国主をお迎えする喜び。

 ただいま飛行艇が見えました。ガーランド飛行艇が来ます! 間もなく着陸です!」


 広場のポートに飛行艇は垂直に着陸した。女性領国主の正装である黄色と白のロングドレス、太陽と月をあしらったマント、房を垂らした帽子を着けたテッサが現れた。久しぶりに公けの場に出た彼女に市民の歓呼が響いた。テッサは手を振って応え、檀上に立った。


 内心は揺れていた。帰還演説の内容はマリラがチェックした。文は民を思う心情と具体的政策にしぼられ、彼女自身の揺れる思いは全て削られた。彼女はマントを引くふりをして、演壇下のカレナードを見た。

 飛行艇に乗る前、紋章人は言った。

「あなたの言葉はすなわち領国主の言葉。テネ市民と領国民を安心させるのはあなたしかいません」

テッサはグウィネスとマリラの間に取り残されたと感じていた。

「紋章人、男女よ。お前は一度自分の身を捨てたと聞いた。私のわだかまりを知ったうえで捨てよというのか」


 彼女は群衆の前でためらった。カレナードは静かに檀上に上がり、テッサの脇に控えて片手を挙げた。ガーランド軍楽隊がミセンキッタ領国歌を演奏した。人々は歌った。長い歴史を誇る喜びが歌声に乗った。

 歌声はテッサの背中を押した。彼女は私情を交えず、領国主にふさわしい態度で事を終えた。最後に付け加えた。


「私はミセンキッタの名に恥じない代表者として成人の日を迎えたい。ガーランド滞在中にその決意を固めた。ここに紹介しよう。私の横にいる者は、女王の眼となって私を支える特別後見人、カレナード・レブラントだ。ガーランド女王に御礼申し上げる」

カレナードは優雅にテッサに頭を下げた。人々はララークノ家の威光を讃え、拍手した。


 ガーランド艦橋のモニターの前でマリラはつぶやいた。

「カレナード、これからが長い正念場ぞ。さて」と女王は椅子を回した。

「トペンプーラ、奴らの逃亡先は掴んだか。ここで逃げられては厄介だぞ」

「結論から申し上げマス。玄街首領の足跡はミルタ連合領国とブルネスカ領国の間で途絶えました。追跡は難航中デス」


 彼の眉間にしわが寄っていた。

「玄街潜伏拠点はミセンキッタ西部からロシェック大山嶺の麓まで11ヶ所。資金源のナノマシン濾過器製造工場はトルチフ北部とブルネスカ南部にそれぞれ2ヶ所発見。経営母体と熟練技術者は玄街ヴィザーツですが、現場作業者の半分はアナザーアメリカンでした。彼らは流れ者や出稼ぎ労働者を誘っては僻地の工場に収容していました。そこから生きて出るにはかなり幸運に恵まれねばならないようデス」


「今回、奴らは逃げるだけで抵抗も反撃もしなかった。なぜか」

「グウィネスは霧のように消えたなら、ミセンキッタ以外に本拠地があります。ミセンキッタを失いたくなければ必死で抵抗するはず。工場や地方拠点の幾つかを捨ててもそれほどダメージはないのでしょう」

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