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第4章 欺瞞作戦前夜

カレナードは両手を組み、胸の前に寄せた。

「ダユイの動機は何ですか」


「それは彼に直接聞くといい。彼は玄街軍主計局員を勤めて10年。本城広場前酒保に転勤した時から、彼は領国府の動きを見張った。彼は優秀だ。酒保の出前係で領国府内に入り込むや、グウィネスに相当量の情報を流した。その中にはマレンゴ監視任務も含まれていた」


 シドは水道橋の下にある建物で、カレナードとダユイを対面させた。彼はシドより若く、飄々としたエネルギーを纏っていた。カレナードは彼の眼に信頼を見て取った。

 彼は言った。

「何度か、あなたを領国府で見かけた。一度はグウィネス・ロゥに殴られたあと。合同葬儀で礼拝する姿も。自分は玄街軍と一緒に行きたくなかった」


 カレナードは静かに質問した。

「軍務局が制圧された時、あなたは何をしていたのですか」

「勤務先から逃げ出して、医局へ。シドさんの下なら生残る可能性があるかと」

「玄街軍に身内がいますか」

「兄がメジェドリンに搭乗している。整備員だ」

「ご心配でしょう」


「いや、グウィネスを崇め奉っていられる間に戦争が終わればいいと私は考えている。彼女のやり方に疑問を持てば、兄は苦しむだろう。春までに戦争を終わらせられるかな、紋章人殿」

「それにはコードネーム『ダユイ』の腕が必要です。なぜあなたはこの仕事を引き受けたのですか」


「調停だ。初めは絵空事と思っていた。だが、あなたが領国府の面々を調停に引きずり込むのを見ているうちに、真剣に考えた。グウィネスとガーランド、どちらがミナス・サレにとって得るものが多いか。

 そして、グウィネスがミナス・サレ市民を奴隷と見なしているのを知った。彼女にとって玄街コードを使えない市民は犬以下だ……。

 玄街軍勝利のあと、この都市は地獄になるだろう。自分はそれを見たくない」


 ダユイは玄街軍特製の通信器を披露した。納戸の扉を開くと、中の棚に青銅色の機器、その前に椅子があった。彼は言った。

「何から始めたらいいかな」


 暦を片手にシドは確認した。

「今日が11月朔日。冬作戦開始まで42日だ。12月12日、玄街南方拠点を攻撃に向かうと見せて、ガーランド艦隊の7割はコロン・トレイルを抜けミナス・サレ領内を通過する。アドリアン級戦艦だけは黄鉄回廊を抜ける。それが14日から16日。

 我が領国でミナス・サレ軍の6割が合流し、両軍はデンベス・トレイルとレニア大回廊を抜け、玄街軍の西北側に展開するのが20日。奇襲となる総攻撃は21日の朝、すなわち冬至だ」


 カレナードはダユイに言った。

「我々の任務はガーランドの作戦に沿って、玄街軍に嘘の情報を送ることです。

 欺瞞作戦のシナリオを早急に練ります。奇襲を完全に成功させるには、セバン高原の目を南方に釘付けにしておくこと。そして本当の正念場は作戦開始以降です。

 ガーランド艦隊の母船は大山嶺を抜けられませんから、南方に向かっていると見せかけて、実際はセバン高原を目指す。その動きを絶対に知られてはならない」


 ダユイは右手の親指と人差し指で顎を挟んだ。

「では、南方拠点は攻めずに放っておくのか」


「いいえ、すでにガーランドとこちらの参謀総長が心理作戦を仕掛けています。『各拠点での反射砲部品開発が終了次第、グウィネス・ロゥは拠点を捨てる予定である』など、幾つか玄街の不安材料をオープン回線で流しています」

「陽動をかけるだけでなく、壊滅か」

「はい。ガーランドの情報部特殊部隊は、これまで玄街が培ったテロの手口を徹底して学びました。内部から攪乱し、12月15日に大山嶺を東に抜けたミナス・サレ軍が拠点を制圧する。こうして南方の憂いを断つ」


 シドはまだ眉根を寄せていた。カレナードは尋ねた。

「気になることが?」

「ああ、万が一、反射砲が冬至までに使われた場合、アナザーアメリカがどうなるかと考えている」


「シド、それは誰にも分かりません。確実なことは反射砲の標的になる場所でたくさんの人が殺される。

 ガーランドの甲板材料部は幾つか試みをしています。反射砲の位置をセバン高原の500地点に設定し、収束ビームの軌道計算をしています。その予測値から地上に到達する前に威力を削ぐことが可能なら……ガーランドの電磁バリアを応用したエネルギー拡散を狙っているのですが……」


「あまりにも空が広すぎる」

ダユイの言葉にカレナードは頷くしかなかった。


「紋章人、シド、我々の仕事に取りかかろう。まずミナス・サレ軍の戦力をごまかす必要があるが、玄街間諜はまだ何人かいる。報告が食い違ったらマズいだろう」

シドは懐からタシュライ参謀総長の指示を取り出した。

「保安局が1週間以内に捕縛し処刑する。残るスパイは『半月』のみとなる。安心して仕事に専念しよう」

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