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第4章 境界面反射砲の脅威

カレナードは頷いた。

「シド、ウマル・バハとリリィ・ティンに会って下さい。2人に誕生呪不活性化の詳細を知らせてあります」


 医師同士が率直に意見交換する姿は頼もしかった。ピードが駆るトール・スピリッツに負けてない。 

 3人のコード熟練者は結論を出した。

「この武器は使用前に破壊すべきだ。発射されてしまえば、構築コードの防御壁がバリア代わりになる保証はない。途中で荷電粒子の収束帯を分解あるいは霧散させるコードも分からない。出来るだけ早く確実にセバン基地を叩くべきだ」


「ところで」とリリィがいつになく丁寧な声で話を変えた。

「玄街の誕生呪、つまり起動コードの機能不全ついてお聞きして宜しいかしら。ヴィザーツ同士としてお願いします」


 シドはミナス・サレでの調査をつぶさに話した。

「レブラント女王代理にも協力してもらった。診療記録とコード機能不全の死者の記録、そして軍事局の記録を分析した結果、臨界空間内反射砲の開発実験が行われた数日間に死者が出ている。

 グウィネス・ロゥは反射砲の構想をおそらく20年前から用意していた。

 ミナス・サレの北の谷で秘密裏に開発を行い、小規模な実験を繰り返していた。


 最初の不審な死者が出たのが5年前、それから徐々に突然死が増えていった。人体内で活動するナノマシンに不要な揺らぎが生じるなど、ミナス・サレの医師たちも住人も考えたことがなかった。皆が不安だった。だから、グウィネスが流したサージ・ウォールの毒という噂を信じる者が増えたんだ。


 レブラントがミナス・サレに来て、私はやっと毒が原因でないと確信した。が、他に突然死の原因を探る手掛かりを見いだせなかった。

 軍事局が公開演習を始めた時、砲弾に紛れて反射砲を使った形跡があった。まだ不完全で攻撃飛行艇に小型の装置を乗せて、高度2700でサージ・ウォールに沿って使ったが、境界面で反射せず、被膜のように広がって消えた。

 当日は爆煙のため、はっきり見た者は少なかったが、副領国主ジュノア・アガンが演習の一部始終を撮影していた。それも数ヶ所で彼女の腹心が記録していたおかげで、演習を隠れ蓑に反射砲実験をしたことを突き止めた。

 が、遅かった。それが判明した時にはミナス・サレから多くの命が消えた後だった」


 カレナードが付け加えた。

「軍事演習はミナス・サレ市民に公開され、子供たちも大勢見物したのです。天蓋とはいえ、隙間はかなりあります。風に運ばれた反射砲粒子が塩湖のほとりにいた市民たちに降り注いだのは間違いない。

 2回目の軍事演習はもっと多くの反射砲試験機が出ていた。その時は単に荷電粒子砲に見えたけど、そうではなかった。あれは完成に近いものだった。

 

 発射されたビームがナノマシン境界面に届くと、通常は効力を失って広がりながら霧散する。でも、その時に見たビームは境界面を走って、南方へと消えた。私は迂闊にもそれは調整不足による現象と考えた。

 2日後にたくさんの子供が亡くなりました。大変な犠牲を出した。反射砲は玄街の起動コードを体内に持つ者には危険なのです」


 ウマルが訊いた。

「シド・シーラ殿、玄街軍の軍人たちはその危険をどう回避しているんだ?」

「あきれたことだが、彼らは捕虜にしたガーランド・ヴィザーツにガーランドの起動コードをかけさせていた。ミナス・サレにいる間にさっさと予防してから、造反行動に出たわけだ。アナ・カレントから聞いたか、カレナード」


「ええ。保安局が怒るわけです。グウィネスが捕虜を勝手に使うので、タシュライ殿は手を焼いていた」


リリィは推測した。

「では、玄街軍が今も若干名のガーランド・ヴィザーツを伴っている可能性はありますか。万が一のための保険として」


シドは頷いた。

「軍事局間諜が白状したところ、セバン基地以外の拠点にも捕虜がいる。救出したいものだ。ウマル殿、そちらの参謀室に進言を願えますか」

「もちろんだ」


 トペンプーラは「セバン基地破壊作戦」に向けて全てを計算しなくてはならなかった。ウマル・バハから出された玄街基地内のガーランド・ヴィザーツ救出要請は頭痛の種だ。


「見殺しには出来ない。だが、時間はあまりにも少ない!」


 参謀室はこの難題の解決に3日の期限を設けた。成功率の高い戦術が示されなければ、ウマルの要請は聞かなかったことにするのだ。トペンプーラは勝利のために犠牲に目をつむるつもりだった。


 が、思わぬ伏兵がいた。ヒロ・マギアのチームの1人が思わぬ指摘をした。

「開戦以降、マリラ女王はたびたび地上でラジオマイクの前に立たれ、今は各領国の機動警察隊と連絡網があり、ミナス・サレと調停の話が出てからはミセンキッタ以西の領国主や首相がガーランドに来ている。アナザーアメリカンに向けた情報共有と戦時宣伝の効果はすばらしいものです。そこで、次はそれを玄街軍にも向けては?」


ヒロは「ホッホゥ!」と快哉を上げた。

「さすがはオレっちのチーム。それは盲点だったな。同じヴィザーツとしてコミュニケーションを取るべき相手を忘れてた!」

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