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第4章 極秘の兵器図面

 ルル副長は艦内電話を数ヶ所にかけ、マリラとトペンプーラが交渉案件をまとめる間に段取りを終えた。その日のうちに一行は黄鉄回廊を抜けた。

 ミナス・サレは不安な活気があった。グウィネスという呪縛からの解放は小さな領国に模索の試練を与え、玄街軍と袂を分かった痛みが根を下ろしていた。


 出迎えたジュノア・アガンは言った。

「玄街軍兵士の家族は隠れて泣いているのです」

マリラは黙って頷いた。

「クラカーナ殿は回復しておられるか。まだ助けられた礼を言っておらぬ」

「父は頑健です。私こそトペンプーラ殿にベアン市会戦の詳細を知らせていただき、礼を申し上げます。ミナス・サレ監視団は戦場いくさばには居られませんゆえ」


 トペンプーラはいつもの口調を出さないよう頑張った。

「ガーランドと各領国機動警察隊、そしてミナス・サレ軍は連合する必要があります。連携の基礎は互いの信頼と情報共有にあります。どんな些細なことも、この先で生かされる可能性がありますからネ。おっと、ぞんざいな物言いをお許し下さい」


ジュノアはトペンプーラの猫かぶりに気付き、口調を真似た。

「トペンプーラ殿、どうぞミナス・サレの軍備をご覧になって。5隻の戦艦を造った技術をお確かめ下さいネ」


 彼女は自ら運転し、工廠へ向かった。運転しながらマリラに提案した。

「コロン・トレイルの拠点奪取ののち、ミナス・サレ軍の駐留を考えております。ガーランド飛行艇と共同訓練に励むこととなりましょう」

「ジュノア殿、軍を率いるのはどなたか」

「ルビン・タシュライです。彼は軍務局参謀総長となりました。旧軍事局の資料を紋章人と共に分析し、玄街軍の動きを予測中です」


 同行のジーナは無礼にならない程度の冷ややかさで言った。

「マリラさま、マダム・カレナードのやりそうな事です。

 ジュノアさま、彼女は『女王代理として、遺された資料を精査するよう進言いたします』などと言って、タシュライ殿を困らせているのでは?」


「ええ、朝早くから正午までは部署ごとに調停作法を教えて廻り、午後は軍務局で資料の山に向かい、夜は夜で歌劇団に調停の寸劇をしてもらってますわ。楽しみながら調停のシステムを分かってもらいたいと。女官長殿は心配症ですの?」

トペンプーラが口を挟んだ。

「仰るとおり。ガーランド艦長と女王の女官長は心配症の鴛鴦夫婦と言われておりまして」

彼の脇腹にジーナの肘がぐいぐい押し付けられた。


 工廠では急ピッチで新造飛行艇が仕上がりつつあった。色は玄街軍と違い、白を基調に、機種別に黄色、オレンジ、赤のツートンカラーに塗られていた。

トペンプーラは思わず声を漏らした。

「美しい……簡潔なる機能美デス」


工廠局長ニキヤは「兵站工場でパイロットスーツもご覧あれ」と勧めたが、眉には憂いがあった。そのパイロットスーツを着る者は、同郷の者と殺し合う運命だ。それを受入れたニキヤは新造飛行艇の先頭にいたいのだ。


 本城の朝堂でガーランドとミナス・サレ領国は相互不可侵及び戦時協定を交わした。クラカーナ・アガンは車椅子で調印を見守った。

 タシュライとカレナードが現われた。タシュライは真新しいグレーと白の参謀総長の制服に身を包んでいた。彼の後ろでカレナードの目は輝き、頬は喜びに満ち、唇はマリラに向かって今にも開かれんばかりだ。

 タシュライは朝堂の全員からの視線が自分を通り越しているのに気が付いた。

「はっは!先に行くかね、紋章人」


 カレナードはそのままマリラの胸に飛込みたかったが、女王代理の身であれば痴態を晒すまいと己を戒めた。何よりタシュライと共に重要な報告があった。彼女はマリラの前にひざまずいた。

「女王代理が女王に挨拶を申し上げます」


2人の間にタシュライがささっと割り込んだ。

「マリラ女王、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じまする。早速で申し訳ない、グウィネスの戦略構想図を発見した。紋章人もひどく気にしておられる」


 アナ・カレントとバジラ・ムアも同席した。

 数枚の図面と文書が朝堂の大机に広がった。どの図面にも『臨界空間内における反射角砲撃(試案)』と『極秘』の判が押されていた。

 誰もが「反射角?」「臨界空間?」と互いに問うた。グウィネスが得体のしれない武器を発案したのか、あるいはすでに開発中なのか。トペンプーラは直ちに突き止めるべきと判断した。

「ここにヒロ・マギアが居れば良かったのに。彼の頭脳は上空3000メートルまでぶっ飛びますからネ」


クラカーナとタシュライは「奇天烈な男に違いない」と言ったが、カレナードは別のことを考えていた。彼女は3000メートルの高みを飛んだ時を思い出していた。

「ナノマシンはあの高さ以上に存在できない。だから臨界空間用のエンジンが止まる。高度3000は一種の境界だ」

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