第4章 玄街大基地、現れる
副隊長が答えた。
「負傷者はいませんが、修理が必要な7号機と9号機はガーランドに戻します」
「よし。全員よくやった。7号機と9号機以外は引き続き待機だ。玄街の別働隊に警戒しろ」
キリアンの喉は渇きを覚えた。彼はいつもの塩レモン水を飲んだ。隣にトール・スピリット2番機が来た。ピード・パスリが通信ケーブルを投げてよこした。
「よう、レー小隊長。元気か」
「そちらこそ。フロリヤさんとアマドア嬢がいなくてどうしてるかと思ってましたよ」
「俺の妻は有能すぎるんだ。おかげで作戦参謀代理に目を付けられた。今頃はお前の故郷まで行ってるよ」
眼下ではガーランドの救援飛行艇が出て、消炎ボールを落としている。コードで圧縮したボールが割れ、大量の水が噴き出した。ピードが言った。
「あの水、元々は海水だぞ」
「カレナードもミナス・サレで戦っているんだろうな」
ピードは一喝した。
「その名を言うな、キリアン! お前の弱点だ! 小隊長なら少しは自覚しろよ」
「レーダーはチェックしてますよ。こちらはトールと違って1人乗りですから、あいつのことを気にしてる暇はありません」
「チッ! 言ってろ、バーカ!」
アヤイは通信を聴きながら、携行食をかじった。
「カレナードのことになると2人とも子供みたいだ」
ガーランドは数日ベアン上空に留まった。アンドラ情報部長が作戦参謀室へ報告に来た。
「トペンプーラ、君がここへ移り、バジラがミナス・サレに残ったままで、めっちゃ忙しい」
「部長が『めっちゃ』などと……何かありましたか」
アンドラは書類を投げてよこした。事態は切迫しているようだ。
「潰したはずの玄街拠点が5ヶ所復活している。いつまでもベアンにかかわってはおれん。セバンからの第1報もゆゆしき内容だ」
「ゆゆしきとは?」
「我々の夏至の聖地は玄街の大拠点にさまがわりだ。たった1年立ち寄らなかっただけで、まんまと奪われた」
「そこで何を作っているんでしょうネ」
「新造戦艦かも知れん。大規模施設を確認したそうだ」
トペンプーラの頬の黒子がピクリとした。
「初戦はかろうじて有利に終わりましたが、勝ったとはいえません。
復活拠点を叩いている間に、グウィネス・ロゥは艦隊を立て直すはず。復活拠点から背後を突かれる可能性もありマス。
ここはミナス・サレと連携したい。女王に話を通していただくのが早い。女王はどこデスか」
その頃、マリラはベアン市を慰問していた。怯える人々を励まし、殺害された人々を悼み、果敢に街を守った人々を慰労した。人々の手はいくらでも彼女を求めた。
「女王さま、マリラさま、お手を! お手を!」
防御壁バリアの上では大量の破片が散乱し、少しずつ滑り落ちてバリアの隙間から屋根や路面に刺さった。それらが人に当たらないよう、勇敢な市民が土嚢やバリケードで落下地点を囲っていた。
公会堂は市街戦の痕が生々しかった。その公会堂前の広いテラスにマリラは立った。
「ベアンの歴史上、かつてない災厄をあなた方は耐えた。あなた方はこの災厄に負けない。悲惨な境遇にいる者を助けるのだ。助けられた者は、この先でまた誰かを助けるだろう。ガーランド・ヴィザーツはあなた方の力を信じている。
脱出した身重の女性たちは新しい命と共に戻ってくるだろう。誕生呪はいかなる時でもアナザーアメリカンと共にある。
臨時ヴィザーツ屋敷をこの公会堂の片隅に置くことを、ぜひとも許していただきたい」
マリラが軽く膝を折ると、市民たちは歓声と涙で応えた。それから再び女王は人々の手を取り、時には揉みくちゃの目にあった。それは女官長がトペンプーラからの緊急コールを受けるまで続いた。
「それで、ミナス・サレに何を要求するのだ、トペンプーラ」
「マリラさま、玄街の拠点はブルネスカ領国ポルトバスク市の南方50キロメートルの緩衝地帯に二つ、旧トルチフ西領国南部に一つ、オスティア領国のコロン・トレイル北東30キロメートル地点に二つ。そして夏至祭開催地に大規模拠点を特定しました。
まずコロン・トレイル方面をオスティア西部統合屋敷とガーランド強襲戦艦1隻、そしてミナス・サレ軍で制圧し、後顧の憂いを取り除きます。女王直々にアガン家と軍に話を付けてください。ことは急ぎます」
マリラは「承知」と頷いた上で言った。
「そなたも同行せよ。この先を円滑に進めたければ、直接会って礼儀と友好を示せ。参謀室副長、スケジュールを組んでくれ」
副長はヨデラハンが一目置いていた男だ。ここ数年、トペンプーラが情報部に引き抜こうと世話を焼いた間柄で、バジラ・ムアより若い。
「トマ・ルル、拝命いたしました」




