第4章 ベアン攻防戦・5
ガーランドから光の帯が凄まじい速さで玄街軍を襲った。
その下でベアン市民とガーランド地上部隊は建物の奥へ奥へと、あるいは地下へと避難していた。
ベアン市街上に張られたガーランド・コード防御壁に向かって、玄街船の構築コードバリアの破片が落ちてきた。それらは帯電していたため、防御壁に当たると火花を散らした。
が、防御壁を破ることはなかった。
問題は防御壁のわずかな隙間に飛込んだ破片による火災だった。ベアンの家屋は半数が木造だ。
艦砲射撃が始まり、玄街バリアの破片がますます市街に降り注いだ。トール・スピリットのホーンは側面攻撃に備えて市街の西側に、回り込んでいた。
「おい、マジか。ハイランド部隊の連中は死にたいのか」
第2コクピットのアヤイ・ハンザが言った。
「構築コードを重ねて補強してますね。外に出てあれをやる度胸はさすがですよ」
「やれやれ。装甲戦闘服も着てないのに。火傷するぞ」
「ホーン中尉、黒縞のマンダリン艦のバリアが破れました。粒子ビーム、行きましょう!」
「よし、照準合わせ確認しろ!」
玄街戦艦は市街上空に、西からマンダリン、アガート、メジェドリン、セレンディと並んでいた。最初にバリアを破損したマンダリンに5機のトールが襲いかかった。マンダリンの対空砲火をかわし、砲塔にビームを集中した。さらにV3戦闘艇が続いた。
東市街ではセレンディ艦がスピラー小隊の猛攻を受けていた。先陣を切っているのはキリアン・レーだ。彼が駆るスピラー・ワンは流れるようにセレンディの脇腹を撃っていった。
「圧せ! スピラー隊、こいつを北へ圧しだしてやれ!」
管制からミシコの声が響く。
「全機に告ぐ。2分後、再度ガーランドからビーム掃射だ。避けろよ。2分後にビームが行くぞ!」
モトイーは今までにない数百の雷鳴を聞いた。大気の振動が激しくなり、彼は暗幕シートを少し持ち上げた。市街から10キロメートルは離れているが、シートの上に細かい破片が積もっている。
「大戦だ。ハイランド隊よ、ベアンを守り切ってくれ……」
クロードは水で食べ物を流し込んでいた。その味はひどくしょっぱかった。
グウィネスは自分の艦隊が紫色の光に包まれ、次第にバリアを失っていくのを見詰めていた。
「イダよ、どれくらい持つか?」
イダはわずかに首を振った。
「不利ですな。20分でバリアは全壊です。すでにマンダリンが危ない。セレンディも本艦の盾になり、損傷が出ている。戦闘艇はあのビームには太刀打ち出来ない」
艦橋にピリピリと放電の余波が走り始めた。船は僅かだが、ビームに圧されて後退していた。
グウィネスは各艦からの報告を受けると、命令した。
「全艦、北に脱出せよ。しんがりは本艦が引き受ける。アガートと輸送船を先に遣れ。合流地点はベアンの北80キロメートル、デンベス・トレイルの東50キロメートルまで後退する。地上部隊と負傷者を忘れるな」
イダは脱出に向けた指令を発した。
「各砲座、トールとスピラーを近づけさせるな。メジェドリン以外は高度を低く取れ、市街をとことん盾にしろ」
グウィネスは煙の向こうの夕陽に目をやり、奮闘するマンダリンとセレンディから遠いガーランドへと視線を移した。
「敵ながら、よくやると褒めてやる。次はこう簡単に引き下がると思うなよ、マリラ。これからが本番だ、エルマンディを墜としたツケは高くつくぞ。
艦長、バリアを前面に集中せよ。地上部隊収容急げ。ワイズ・フール小隊はベアンの武装警察に追われているようだ」
頭上の戦闘をものともしない一団が、玄街装甲車に発砲していた。
フールは装甲車の中で毒づいていた。
「ベアンなぞ、火の海に沈んじまえ、バカヤロー!」
北街道に出た所で、装甲車ごと戦闘艇に乗り込んだ彼は呪詛を唱えていた。
「トペンプーラを殺す、トぺンプーラを殺す。あいつを、あいつを切り刻むデスよ!」
秋の日没は急激で、77分を待たずに暗闇が迫った。
ガーランドが加速しつつ通過すれば防御壁バリアに積もった破片が市街に降り注ぎかねない。が、ベアンを迂回すると追撃のチャンスは無くなる。
マリラは深追いを止めた。
「エーリフ、撤退の信号弾を上げろ。最後に荷電粒子砲をお見舞いしてやれ」
「アイサー! 全軍撤退、各戦艦はガーランドまで下がれ。救護班、随時報告を送れ」
5分後、最後のビームが市街を照らし、暮れゆく北街道の向こうでいくつか火花が散った。
キリアンはビスケー艦の脇に待機していた。市街の数ヶ所での火災を確認した。
「スピラー隊、負傷者はいるか?」




