第4章 ベアン攻防戦・4
ガーランド遊撃隊か、抵抗組織が玄街に市街戦を挑んでいるのだろう。
「味方に撃たれて死ぬのは癪だわ……そうだ! 防御壁を私だけで作れるなら」
彼女は祈るように両手を胸の前で会わせ、複雑な手順を踏みながら小声でコードを唱えた。その間にも金属の弾ける音が途切れることはなかった。装甲にいくつか穴が開き、車内を弾が飛んだ。
運転席にいた玄街兵は訳の分からない叫びを上げて外に飛び出していった。クロードもまた声を上げて床に伏せ、痛みを感じて気を失った。
目覚めたのは、轟音の下だった。モトイーが「頭を下げて!」と大きな手で後頭部を押す力で、クロードは自分が生きていると知った。
「間に合ったぞ、クロード。ガーランドが総攻撃をかけるところだ。ここは脱出船の中だ。ドミと息子さんは昨夜のうちにハイランド隊が連れ出したんだ」
暗幕シートで覆われた船は川を下っていた。シートの隙間から夕暮れの空が見えた。大量の煙が流れていた。
「総攻撃って。モトイーさん、まだ市内にたくさんの人が残っているはずよ」
「ああ、脱出は妊婦と赤ん坊を優先したからな。
ガーランドは前の戦いで負傷の大きい藍色の船にとどめを刺し、それから市街上空にいる残り4隻を長距離射撃で北へと押し出す。
その間、ベアンが壊れないよう、今頃は構築コード専門部隊が市内で我々のあとを引き継いでいる」
「……上手く行くのでしょうか」
「怖いかね、クロード。あれほど勇敢に私を補佐してくれたのに」
「いえ、父と息子のことでホッとしたのですわ。急に気が抜けて……足が痛いわ」
「装甲車の中で銃弾がかすったんだよ」
モトイーはクロードに携帯食を渡した「食べられる時に食べておくんだ」
脱出船の上空をトール・スピリッツが光の矢のように飛んでいった。
先日のナノ素材ロープで痛めたエルマンディ艦をさらに痛めつけるために。
エルマンディは市街を盾にしたが、今度は船体にロープを打ち込まれ、東へと徐々に引きずられている。そのロープはガーランドに繋がっていて、100本の煌めく糸となって夕陽に映えた。
トールが撃ち込む徹甲弾で船体のあちこちから黒煙が上がり始めた。すでに玄街の構築コードバリアは破砕し尽くされ、船から数十の脱出艇が出ていた。
ガーランド艦長エーリフはオープン回線のマイクを握った。
「脱出中のエルマンディ艦の船員に告げる。
投降の標しに窓に白旗代わりになるものを張り、ベアン市街南東の川沿いに着陸しろ。1機でも自爆に巻き込むなら、投降は認めない。5分待ってやる。繰り返す、投降を勧めるぞ。
こちらはガーランド艦長ワレル・エーリフだ。投降後の命は保証してやる」
マリラは装甲戦闘服に身を包み、エーリフの声をじっと聞いていた。その目に感情はなかった。
市街上空の玄街艦から戦闘飛行艇がエルマンディ脱出艇援護のため、波のように押し寄せた。
ガーランドは投降の呼びかけに答えを得られないまま、エルマンディの息の根を止めることにした。
南東へ加速したガーランドはその推進力とロープで、エルマンディをキャベツのザク切りのように刻んでいった。哀れな藍色の船は火花と粉塵を撒き散らし、鉄の悲鳴を上げて地上へと崩れていった。煌めくロープの束がガーランドから切り離され、長々と大地に横たわった。
間髪を入れず、ガーランドは分離形態に入った。わずか数分で5隻の強襲戦艦がガーランド上層甲板の後ろに出現した。エーリフは旗艦アドリアンの艦橋に移っていた。
「各艦、貫通弾用意。作戦参謀室、ベアン市各区に防御壁は出来ているのだろうな。こちらは遠慮無くやるぞ!」
トペンプーラのかわりに管制統制室のミシコ・カレントが状況を伝えた。
「各艦に告ぐ。天候は快晴、高度100において北西の風8メートル、地上では5メートル。日没まで77分。ベアン市内の遊撃隊四個中隊は公会堂と警察署の制圧完了。ハイランド部隊による防御壁構築完了まで15分。以上」
エーリフは吠えた「15分だと?10分でやってくれ!」
アドリアンがやや高度を取って先鋒を勤めた。右側にバルトとビスケー、左側にカラとロリアンが戦列を組んだ。エルマンディの残骸が燃える上空で、玄街戦闘艇が波状攻撃の陣形を取った。
先制したのはガーランドの荷電粒子砲だった。6条の光がそれらの戦闘艇をなぎ払い、空いた空域にアドリアンが躍り出た。マリラの指令があった。
「エーリフ、5分だけこちらに任せよ。荷電粒子砲で向こうのバリアを弱らせてやる。私はハイランド部隊を守ってやる義務があるのだ」
「了解」と返答したエーリフだが、内心は時間が惜しかった。
「女王は外れヴィザーツを案じておられる。まぁ、1分くらいは誤差で良かろう。砲座、4分後から黒縞戦艦に集中砲火を浴びせろ」




