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第4章 ベアン攻防戦・2

 2日後の早朝、ガーランドはやって来た。

 ベアン市の南12キロメートル、高度300メートルまで降下して陣取った。一番近いエルマンディ艦が探査光を出しても届かない距離だ。

 ベアンが占領されて3日、玄街は補給に余念がない。ガーランドはそれを狙った。


 民間飛行機を隅に追いやり、玄街輸送機がベアン市飛行場に並んでいた。近くにマンダリン艦が浮かんでいた。

 ガーランドから3機のトール・スピリッツと4機のスピラーが突撃し、徹甲弾をマンダリンに打ち込んだ。玄街艦船の構築コードバリアに当たった衝撃で徹甲弾は炸裂し、黒煙が上がった。


 トール1番機のホーン・ブロイスガーは切込み隊長だ。

「黒縞模様の砲塔を潰すぞ! トール各機、バリアの穴から再度徹甲弾をお見舞いしてやれ!」


 ガーランドから別働隊が発進した。

 スピラー10機とV5戦闘飛行艇20機の編隊がエルマンディに向かい、V3飛行艇10機は飛行場の玄街輸送機を襲うコースを取った。玄街部隊は構築コードバリアを展開するのに手間取り、V3飛行艇の苛烈な爆撃で1機の輸送機が爆発した。


 その衝撃波はヘット商店まで届いた。3階の窓ガラスが割れたが、2階以下はモトイーが貼ったヴィザーツの防御コードでしのげた。ヘット商店と特別な信頼を置く周辺の家も同様だった。


 モトイーは2階のベランダで双眼鏡を使っていた。

「これくらいなら屁でもないが、ここに直撃が来たら、すまんが覚悟してくれ、ドミ・ヘット」

「この際、出し惜しみせず、もっと強固な防御壁コードを使わないか、モトイー」

「儂は万能じゃないぞ。見ろ、スピラーがあの藍色の船に仕掛けるぞ」


 ドミは南東の空を注視した。スピラー隊はエルマンディ艦の下をくぐり抜けるや、即座に上昇して、今度は敵艦の上を元来た方向に飛んだ。その間に市の北側にいたセレンディ艦から戦闘機が飛来し、V5飛行艇が相手になった。


 グウィネスは旗艦から信じがたい光景を見た。エルマンディがやや南へ引っ張られていて、スピラーが反転したあたりの構築コードバリアに裂け目が生じていた。

「ガーランドはどのような武器を使っているのか。エルマンディ艦長に報告させよ」


 彼女の目の前でエルマンディ艦の装甲の縁が粉々に、それもゆっくりと裂くように崩れていった。

「スピラーはとんでもなく鋭利なロープでエルマンディを刻むつもりだ。スピラーを落とせ。ガーランドめ、汚い手を使いおって! イダ・タシュライ艦長、ガーランドに一矢報いるぞ」


 メジェドリン艦長はタシュライの異母弟だ。彼は異母兄ルビンとは全く違い、玄街の哲学を疑ったことがない。

「第2戦速、前進! 左舷砲塔開け。目標、ガーランド右舷船倉昇降ハッチ!」


 V3とV5編隊が玄街戦闘機に追撃されているスピラー部隊の援護に加わったが、メジェドリン艦が突進してきたので、ガーランドの全部隊は戦闘空域から脱出した。


 代わりにガーランドも前進し、電磁バリア全開でメジェドリン艦の行く手を遮った。3000メートルの巨船が放つ圧力は、メジェドリンを潰すかに見えた。砲塔は全く役に立たなかった。二つの浮き船の間で凄まじい放電が起こり、雷鳴が轟いた。

 それは地上まで届き、ベアン市郊外に数十の落雷の火柱が立った。

 メジェドリン操舵手必死の回避運動がグウィネスと乗員たちの命を救った。


 すれ違う2隻の間で通信が混線した。

 先に気付いたグウィネスはマリラを罵った。

「本日の報復としてベアン市民を殺していくぞ。日に500人ずつだ。玄街はベアン上空に留まり、戦闘もベアンでする。この都市が壊滅してもいいのなら、いくらでも相手になってやろう。アナザーアメリカンを見殺しにしながら戦うがいい」


 オープン回線を通し、その言葉はベアン市街に振り注いだ。マリラは負けなかった。

「壊滅するのはそちらであろう。そのざまでよくもガーランドに挑めたものよ。

 ベアンは玄街に屈せぬ。ガーランドはベアンを見捨てぬ。どの都市を盾にしても無駄だ。お前の目的は破壊のための破壊であり、得るものは何も無い。

 ガーランドには決して譲れぬ意志がある。サージウォールで閉ざされた世界を暗黒に染めてはならぬ。 

 玄街兵士の諸君、あなたたちは負ける。グウィネスのための犬死には何の価値もない。ただちに投降せよ」


 そこで回線は切れた。グウィネスは傍らで痙攣しているワイズ・フールを蹴飛ばした。

「小僧、ベアン屋敷の脱出者をあぶり出せ。特に助産所の誕生呪専門の者だ。匿っている者もだ。そいつらから血祭りにあげてやる。ベアンの赤子が育たぬとなれば絶望が広がるだろう。人間は恐怖で縛るのが一番よい。そう思わぬか?」


 ワイズ・フールは、自分が残酷の底なし沼に沈むのを感じていた。それは恐怖であり、快感だった。マリラへの思慕に取って代わった生来の悪童魂が彼を支配していた。

「ようござんす。トペンプーラの知合いで、モトイーなる勇猛な男がいたはず。秘密主義のヴィザーツ屋敷でも周辺のアナザーアメリカンを痛めつけりゃ、話が早いってもので。げへへへっ」


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