第4章 宣戦布告
グウィネスの飛行艇を追うように、ガーランド警備飛行艇ラヴ・スリーからテンの8機が玄街戦闘機の牽制に向かった。
カレナードは残る飛行艇へと走った。
「警備飛行艇に十分な武装はあるだろうけど、レニア大回廊内で戦ったら、トンネルが保つのか。いや、それより調停を止めてはいけない。ああ、クラカーナ殿」
ラヴ・ツー内の遮音室でクラカーナはガーランド・コードで止血を受けた。彼は芳翠城への緊急車両に運ばれながら言った。
「全くエラい目に遭ったぞ、紋章人。調停でひとつ貸しにしておく。儂らの面前で女王と戯れたからな」
「クラカーナさま、庇っていただいた御恩は忘れません」
ジュノアが連絡マイクを握ったまま、父を叱った。
「どさくさに紛れて何をおっしゃる。お年を考えず、芳翠区築城現場をマシラの如く駆け回っておられたのはどなたです」
「ジュノア、それを言うな。儂は猿が嫌いなのだ」
マリラが呼びかけた。
「副領主殿、玄街軍を止める術はなさそうだな」
ジュノアは緊急車両を見送りながら答えた。
「軍を維持するため、グウィネスの腹心らがミナス・サレをクーデターで乗っ取るはず。今の各局長とアガン家は皆殺しです。滑走路にいては狙われます。お早くここを離れませ」
「内乱を食い止められるのか」
「必ずや。では、くれぐれもご無事で。調停を続けるためにも」
「待て、ジュノア殿。玄街軍は我らの共通の敵となった。10機の飛行艇と200名のガーランド精鋭で加勢いたす」
マリラはレニア大回廊に残した通信アンカーを通し、ガーランド艦橋に告げた。
「たった今、玄街軍はミナス・サレ領国と我らに宣戦布告した。ミナス・サレ内乱を防ぐゆえ、使節団はミナス・サレ本城内の玄街勢力を駆逐する。
各回廊とトレイルから出る玄街軍を出来るだけ叩け。作戦参謀室は室長を失ったゆえ、トペンプーラを代理とする。ミセンキッタ大河以西の各屋敷はいつでも緊急発進をかけられるよう指示しろ。
ガーランドはブルネスカ領国南側の緩衝地帯を西進、また、大山嶺東麓の玄街拠点が戦力を保持している可能性がある。警戒を怠るな。
さて、ジュノア殿、ミナス・サレ監視団に連絡を。玄街軍を共に討つ事態になったと知らせておくれ。そなたの声で通りを良くして欲しい」
ジュノアは通信機を握った。
北の谷からは金属の擦れる音とタキア回路エンジンの気流音、そして朱と紫の細い探知光がパシッパシッと周囲に反射しながら滑走路に近づいていた。
ガーランド艦橋は全艦に女王の知らせを通達した。管制統括室のレーダー画像前にいるミシコ・カレントはモニターから目を離さなず、それを聞いた。
「ヨデラハン参謀室長はやられたのか。母上、カレナード、いや、今は考えない。集中しろ」
レーダーにミセンキッタから近づくスピラーの3小隊があった。隊長機の通信が流れてきた。
「こちら、スピラー・ワン。第二甲板へ着陸許可を願う」
その声はキリアン・レーだ。ミシコは同期の逞しさに感じ入った。
「あいつ、なんてタイミングでカレナードの近くにやって来るんだ。しかも僚機30人連れで!」
ミナス・サレでは軍事局が素早く執政局と兵站局のほとんどを占拠していた。
市民たちは本城から逃げようとあらゆる出口に殺到した。
タシュライの先導で冷宮区の隠し扉から始まった玄街駆逐作戦は、その日の夕刻までに何とか成し遂げられたが、玄街軍は本城の奥の宮と滑走路に砲撃したあと、レニア大回廊と黄鉄回廊から大山嶺の東へと抜けてしまっていた。
午後6時、タシュライは負傷した部下たちを見回り、朝堂に戻った。銃弾を浴びた椅子が隅に寄せられ、床にはあらゆる物の破片が散乱していた。彼はジュノアに報告した。
「死亡者は執政局員5名、兵站局員9名、衛士27名、市民19名。玄街軍事員は逮捕者26名の他に生きている者はいません。市民たちは芳翠区と兵站工場、工廠の倉庫や畑地に待避したままです。ジュノアさま、城内で隠れている市民たちにも声をかけて下され」
「メジェドリン艦の貫通弾でやられた奥の宮は?」
「ほぼ鎮火しました。お子さまと女官たちは歌劇場に避難していて無事です」
ジュノアは暮れかけた広場を見渡し、マイクを握った。
「ミナス・サレ市民よ、本日の災厄は終わった。皆、安心して私の声に耳を傾けよ。
全てはグウィネス・ロゥの策謀である。玄街首領にして軍事局長でありながら、領国を欺き、無慈悲な統制の下で我々を奴隷にしようとした。グウィネスは反逆者であり、追従者も同様である。
城内軍事局は保安局とガーランド精鋭部隊が制圧した。保安局が発した非常事態令は5日間継続する。これより、ガーランド女王が皆に挨拶なさる。聞きなさい」
市民にざわめきが起こった。




