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第4章 道化の二振りの刃

 ガーランドはブルネスカ領国南部で臨戦態勢に入っていた。第一甲板と第二甲板のすぐ下の層はいつでも分離可能な状態で、5隻のアドリアン級強襲戦艦のエンジンはすぐに暖められる。

 旗艦アドリアンの艦橋に入ったワレル・エーリフはガーランドの第一甲板に並ぶトール・スピリッツに眼を細めた。

「良い感じだ、実に良い。僚艦バルト、ビスケー、カラ、ロリアンの諸君、調子はどうだ」


すぐに各艦長から応答があった。ビスケー艦長は報告に付け加えた。

「エーリフ、ミナス・サレ監督艇にバレてないか?」

「ぎりぎり大丈夫だ、ぎりぎりだがな。問い合わせには演習だと言え。ブルネスカの各屋敷はいいのか?」

「オールクリアだ。戦闘飛行艇はいつでもOKだ」


 エーリフはガーランド第一艦橋に連絡を入れた。

「オスティア領国とミルタ連合はどんな具合だ」

「ミルタは西部統合屋敷がデンベス・トレイルを、オスティアはラポット大屋敷がコロン・トレイルを監視中。どちらも動きはない。女王が入ったレニア大回廊の前はまだ新聞社の飛行機が何機か残っている」

「玄街、いや、ミナス・サレはトンネルに古風な名を付けたな。あとは黄鉄回廊だが、フロリヤ号から連絡は?」

「郵便飛行機に偽装してますがね、何も」

「ふむ」


 エーリフはジーナのことを考えた。女王に随行した気丈な妻、彼女は今頃ミナス・サレを目撃し、その領国主に会っている。

 彼は左手の指輪を見た「大丈夫だ、ジーナ女官長」


 調停開始式一行は少しも大丈夫でなかった。


 本城の滑走路でマリラはようやくカレナードと再会した。

「そなたはいつも私の考えが及ばぬ事態を連れて来る。命知らずめ。ミナス・サレの方々にどれほど助けられたか、忘れるな。それにしても楽しげな衣装だな」


 女王は顔を近づけ、紋章人に接吻した。

 その時だった。ワイズ・フールが帽子の中から二振りの短剣を抜き、跳躍した。狙ったのはカレナードの首とマリラの後頭部だ。

 が、鋭利な煌めきが貫いたのは、クラカーナの腕と肩だった。彼は刺されながらも、歳に似合わぬ剛力でフールを蹴飛ばした。

 ヨデラハンは問答無用でフールにのしかかり、彼の指輪から出た毒をまともに浴びてしまった。


 父に駆け寄ったジュノアの背中を、グウィネスの短銃の弾が襲った。グウィネスはさらにタシュライに狙いを定めた。そこに飛込んだのはマレンゴだ。

「魔女め! 貴様を逮捕する」


魔女は嗤った。

「遅かりし、だな。マレンゴ」

弾はマレンゴの右肩を貫通した。


 ジュノアは防弾システムでも防げない痛みに耐えて命令を出した。

「保安局は城内の軍事局員を全て拘束! グウィネスは反逆者である! タシュライ、非常事態令を発動、保安体制を最高レベルに移行せよ!」


 タシュライは本城へオレンジと黒の信号弾を放った。

 同時にグウィネスも鏑弾を放った。空気を切裂く警報音が濃い蛍光グリーンを伴い、北の谷に向かった。

 衛士たちはすぐさまグウィネスに迫った。その脇でフールはカレナードの首に新しいナイフを突きつけていた。

「残念でござる、マリラ女王。小生、紋章人を生かしておけないでござる。全てはあなたさまが撒いた種、存分に後悔なされよ」


 ジュノアは視界の隅で、父とマレンゴの応急処置を確認しつつ、グウィネスに告げた。

「軍に停止命令の信号弾を上げよ! 止めねば殺す!」

衛士たちは銃の照準を定めていた。グウィネスは嘲笑った。

「ガーランド女王の許可が要るぞ。紋章人とフールは確実に死ぬ。私は平気だ」

フールはふざけた口調で「そんなぁ、首領殿。小生、死にたくないでござるよ」と魔女を見上げた。


 マリラは逡巡しなかった。

「ジュノア殿、グウィネスとフールを撃て。カレナード、覚悟せよ。そなたを救うことは出来ぬ。私はアナザーアメリカの秩序を優先する」

カレナードは頷いた。ジュノアは驚き、マリラを振り返り、もう一度グウィネスに迫った。


 フールはカレナードを引きずるためにナイフを握った左腕を体から離した。バジラ・ムアは待ってましたと、飛行艇の影からフールの左手を撃った。フールはナイフを落とし、カレナードは素早く地面に突っ伏した。一斉射の銃声が響き、グウィネスが展開した防御構築壁に弾が食い込んだ。


 玄街軍戦闘機の編隊がミナス・サレ城の北に現われた。その中からグウィネス専用小型飛行艇が滑走路に向かって急接近した。


 グウィネスは滑走路上で呪いの言葉を吐いた。

「私の望みは破壊だ。ミナス・サレとて焼いていいのだ。殺戮、無秩序、瓦礫、無法の世こそ、我が王国。マリラ、お前が見たくないものを、これからたっぷり見せてやる。行くぞ、フール!」

「へいへい、おっと、置き土産でござる」

彼はカレナードめがけて残った毒を噴射したが、かわされてしまい地団駄を踏んだ。

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