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第3章 ストライキの朝

ジュノアが簡潔に説明した。マレンゴは黙り込み、タシュライは身を乗り出した。

「ほう、ミナス・サレがガーランドと対等のヴィザーツというのは気に入った。各領国と正式な国交樹立は夢のようだが、実現すれば穀物を輸入できる。飢えの恐怖からの解放だ。

 武装解除が条件なら部分的に受入れて結構。構わんね、保安局は軍事局の添え物ではないのでね、グウィネス殿」


 名指しで皮肉られても彼女はどこ吹く風だ。

「ルビン・タシュライ、保安局には感謝している。軍事局にたくさんの権限を譲ってもらった。また、お前の兄、イダ・タシュライは旗艦メジェドリン艦長を務めておる。兄弟そろって玄街に貢献しているのだ。そちらにはミナス・サレ内部の不穏分子を叩いていただきたい」


 カレナードはわざと疲れた声で聞いた。

「タシュライ殿、不穏分子とは捕えたガーランド・ヴィザーツのことですか」

「いやいや、紋章人。ヤツらは獄中でコードも使えない。私自身はガーランドに仕掛けて勝てると思ってないだけだ」


 マレンゴが叫んだ。

「タシュライ、貴様は軍を舐めているのか!」


ジュノアは立ち上がった。

「お止めなさい、非常に個人的な見解にいちいち怒らないで。どうです、レブラント殿。ミナス・サレは調停するには訓練が足りないと思いませんか」


「大丈夫です、やり方があります。皆さまにはそれぞれの立場があります。立場を守るも良し、離れるも良し。大切なのは先ほどのタシュライ殿のように忌憚のない発言です。

 今回はそこから出発しましょう。マレンゴ殿もどうぞ気をお楽に」


 落ち着き払ったカレナードの態度にマレンゴは驚いていた。彼は保安局長の言葉の何に心がざわついたのか、まだ分からなかった。


 調停はすぐには成果の上がらないものだが、カレナードの真剣さはすでにクラカーナに伝染していた。

 それがタシュライに影響しているのは明らかだ。

 マレンゴは数時間後に気付いた。彼もまたガーランドに勝てない時をひどく恐れているのだ。彼はついに具体的な意見を述べられなかった。


 潮時を感じたカレナードは机に突っ伏した。

「疲れた……。クラカーナさま、このリングを外して下さい。ひどく堪えます」

「それは出来ん。ジュノア、紋章人に気付け薬を出してやれ。いや、熱があるのか?」


 タシュライがカレナードに肩を貸した。

「芳翠区まで送ってやろう。衛士たち、お付きを頼むぞ」

 

 グウィネスは無言で見送り、クラカーナを振り返った。

「次の調停もどきの場に私は不要であろう。あの女と同席しても時間の無駄だ」

「そう言うな、首領殿よ。ガーランドを攻める前に今一度、皆の気を引き締めねばならん。その時、貴殿がいなければ話にならんだろう」

「不本意であるが……そうした方が良さそうだな」


 軍事局に戻りながら、グウィネスは確信していた。次の調停はない。あの女の命は残り僅かだ。残念だったな……クラカーナ殿。こみ上げる笑みを隠すため、彼女は小走りに走った。


 カレナードがタシュライに寄りかかっていると、不意に声がかかった。

「冷宮区の監獄はオレの管轄だ。グウィネスはそれを狙っている。捕虜を自分のために使いたいのさ。彼女がここのナンバーツーに居る限り、オレも狙われ続ける。手を貸してくれないか。ただでとは言わん」


「具体策はあるのですか」

「ガーランド・ヴィザーツはガーランドにお帰りいただき、女王がグウィネスを打倒するさい、オレはさっさと降伏して生き延びたい。

 だから、彼らを警備飛行艇に巧いこと乗せてトンネルを抜けさせたい。グウィネスの命令書と領国主のサインがあれば何とかなる」


「タシュライ殿、二度会っただけの私に大事を明かしましたね」


「軍事局が出来てからミナス・サレは変になっちまった。オレは根っからの玄街ヴィザーツだが、あの女のやり方に違和感がある。

 なぜミナス・サレで満足しないのか不思議だ。お前さんの調停とやらも不思議だが悪くない。むしろ面白い」

「冷宮区の捕虜の名は?」


 タシュライが教えた中に、オルシニバレ・ヴィザーツ屋敷代表の一人、アナ・カレントがいた。カレナードはシド医師とタシュライを引き合わせようと考えた。


「タシュライ殿、軍事局の監視はどうにかなりますか」

「任せておけ。軍事局のスパイは元々保安局仕込みだから、手の内は分かっている。オレがグウィネスのスパイと疑ってないのか」

「あなたとグウィネスは水と油、ガーランドと玄街も水と油。でも、相反する二つが手を組めば結果は違ってくるでしょう」

「まだ調停をやる気か?」

「もちろんです!」


 3日後の朝、本城の執政局から軍事局にまたがる大広場のテラスは、開戦反対のストライキの座り込みに埋め尽くされた。彼らは侵攻派の罵声を浴びつつも、理路整然と玄街の不利を訴えた。

 軍事局は手を出せなかった。クラカーナがストライキを認めたからだ。彼はグウィネスに「不安な市民のガス抜きにちょうど良い」と語った。


「武力で彼らを追い出せば対立を煽るばかりだ。それより聴く耳をもってやれば、軍事局の株が上がる。上手く使えばいいのだ」


「クラカーナ殿は余裕であられる」

グウィネスはそう応えながら、広場の群れを焼き払いたいと願った。

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