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第3章 命懸けの調停を

 クラカーナはふんと鼻を鳴らした。

「聞いたかジュノア。こやつは儂らの歴史をぶった切ることさえ考えるのだ。無礼にもほどがあるぞ」

「クラカーナさま、提案に耳を傾ける義務があると先に申し上げました。批判なしでお聞き下さい。その上で新たなるご意見を拝聴したします」


「ジュノア、調停とはむかっ腹の立つものだな!」

娘はくくと笑った。

「ですから、時間をかけねばならないのです。価値ある時間ですわ」

「ふむ、時間か。そろそろ朝議が始まる。儂は行くぞ。紋章人、また会おうぞ」


 クラカーナはつかつかと出て行ったが、足音は軽かった。ジュノアは衛士を呼び、紋章人をシーラ家まで護衛するよう命令した「くれぐれも用心なさいませ」


 カレナードは芳翠城に戻る通路で襲撃されそうな場所を確認していった。

 本城のエレベーターホール、幾つかの交差点、雑踏の大通り、急に寂しくなる芳翠区への橋、そして医療棟の各階で止まるエレベーター。


 最上階で扉が開くとラーラがいた。彼女は衛士たちに菓子を渡し、さっさと帰らせた。

「驚くことがあるから、驚かないでね」

「何です?」


 カレナードは懐かしいベル・チャンダルを見るなり、抱きしめた。

「よくぞ、よくぞここまで来てくれて!」


そしてユージュナ・マルゥに抱きしめられた。シドが加わり、脱出計画が提示されたとき、カレナードの言葉に全員が驚いた。

「私はミナス・サレとガーランドの調停を続けます。もう少しここに居られませんか」


ユージュナは真っ先に言った。

「グウィネスはあなたのベッドに毒を撒いた。それが効いたふりをしても猶予はないわ。調停期間はあと少しと考えて。

 シド、偽装飛行艇の脱出はトンネル警備の隙を突く必要がある。管轄は今も保安局なの?」


「いや、軍事局が握っている。工廠と兵站局に物資納入の定期便があるから、警備のスケジュールを探れるだろう。が、先日の演習以降は厳しくなった。

 カレナード、クラカーナ殿の反応いかんでは、穏健派は総動員でストライキに入るつもりだ。脱出までにあと一度、彼と会えるか」

「こちらから申し入れます。彼もこのまま軍を動かすつもりはないようです。ベルさん、マリラはどうしています」


「あなたの帰還を心から待っているわ。調停に賭けたいでしょうけど、マリラさまのご心痛が分からないあなたでないでしょう?」


 ユージュナはカレナードの肩に触れた。

「グウィネスはまたイヤらしい拘束具を使っているのね。シド、首のリングを外すコード、知らない?」

「保安局なら分かるかもな。冷宮区にガーランド・ヴィザーツが6人監禁されている。そこで同じリングが使われていたら、解除コードもあるはずだ」


 ラーラは台所の引き出しから細身のペンチを取り出した。

「いざとなったら、これ使いましょうよ」


ユージュナは娘に微笑んだ。

「良いわね。でもグウィネスにばれる仕掛けがあると厄介だから、最後の手段よ。カレナード、これ持ってなさい」

彼女はペンチを渡した。


 カレナードはグウィネスの毒にあたったふりを始めた。歌劇団のエリザに化粧品を借り、病人のメイクでベランダを気だるげに歩いた。

 シドは穏健派を集め、執政局長に圧力をかけ、以前から用意してあった各局のネットワークを駆使して軍事局警備部隊の情報をかき集めた。


 4日後、本城の接見室でカレナードはクラカーナに情勢の変化を感じ、クラカーナはカレナードの顔色の悪さを見た。


「体調が優れぬなら、今日は止めておくか」

「いえ、機会は多い方が良いのです。互いの腹の底まで見たいものでしょう?」

「まったく食えんヤツだ。ジュノア、グウィネスと保安局のタシュライの席を加えろ。アガン家だけで勝手に調停を進めていると勘ぐられてはいかん」

「そうですが、殴りあいはお止めください」


 間もなく2人がやって来た。タシュライはさっそく釘を刺した。

「舌先三寸で何ができるか楽しみだ、紋章人殿」


 グウィネスは殺気の代わりに軽蔑のまなざしでカレナードを攻撃した。毒の効果は上々と判断し、ますます彼女を追い込む気でいた。

「私とてむざむざ殺されるのを待つつもりは無いぞ。市民にも聞くがいい、本城と共に焼かれるくらいなら打って出ると言うだろう。戦いはもはや避けられんぞ、レブラントよ」


「発言をお控え下さい、軍事局長殿。あなたはとても攻撃的で、調停の作法にのっとる気がない。死ぬ以外に選択肢のないあなたがここにいるのは何かの間違いです」


 玄街の魔女は絶句し、クラカーナとタシュライ、そしてジュノアに眼を走らせた。

 以前とは違う空気が生まれているのが分かった。やはり紋章人は最大の邪魔者だ。短期間にミナス・サレに与えた影響は予想以上だ。ジュノアがマントを与えた理由はこれだったのか。

 グウィネスはジュノア・アガンこそ反戦の元と確信し、怒りに震えた。


 そこへ執政局長マレンゴが入室した。クラカーナは調停の作法を覚えておるかと正し、マレンゴに席をすすめた。一瞬ためらってから彼は座った。

「私は調停は無用と考えます。が、意見を聞くくらいの時間はあります。して、どのような展開があったのです」

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