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第3章 ユージュナ・マルゥの決意

ベラは小さなため息をついた。

「玄街捕虜が時々自殺する理由はそれね」

「私は死にたくなかった。娘を1人にしたくなかった。だから女王に忠誠を誓い、甲板材料部に協力した。

 マギア氏が玄街ヴィザーツを実験協力者に望んだ時、最初は怖かった。実験内容はガーランドと玄街のコード同時使用の影響を広範囲で行うものだったから、最悪、暴発ってこともある。でも彼は私の安全を最優先してくれたのよ。何度か危ない瞬間があったけど、彼の強力な防御構築コードが守ってくれたわ」


「ユナ、あなたにだけ教えるわ。私は元玄街間諜。子供の頃、玄街に売られたアナザーアメリカンよ。スパイ教育を受けて女王の女官になったけど、バレちゃった」

「マリラ女王が守ってくれたの?」

「死のうと思った時、マリラさまが手を差し伸べてくださったから……。あれは何?」

女たちは水道橋を見上げた。

「ミナス・サレの生命線、水の道よ」

 2人の女は水道橋の下をくぐり、清掃婦の道具を手に本城の北橋ゲートを目指した。


 1班のフールと2班のバジル・ムアらは玄街のメッセンジャーバッグを斜め掛けした。フールは2班の出発前に無駄口を叩いた。

「あんた、トペンプーラの子飼いだったでやんしょ。任務終了後に小生の始末を頼まれてませんか」

「副長を目の敵にするのはお門違いです。女王直属遊撃部隊のあなたに手が出せるわけないでしょう」

「ふん、ま、いいでしょ。小生がただの道化でないと肝に銘じなさい」

「了解です、ボンゾ隊長」

「そうそう、小生、エンゾ・ボンゾにてござる。それで、ムーさんよ。着弾観測手はどこらへんにいるとお思い?」


 ガーランドの密偵たちが散らばって10時間後、デコイ・ガーランドはナノマシン滓となって、塩湖の沖に墜ちた。カレナードはベランダに出て訓練が終わるまで耳を澄ましていた。ラーラが帰宅し、買ってきた夕食を並べた。家に捕虜を迎えてから2ヶ月が経ち、木格子を挟んでの食事にも慣れていた。


「今日の艦隊訓練はすごかったわね、ガーランドと戦争したらどうなるかしら」

「そうですね、艦隊同士が撃ち合ったら怖いでしょうね」

「怖いって……?」


ラーラとカレナードの目が合った。


「砲弾が命中、あるいは荷電粒子砲で帯電する所では人は簡単に死にますからね」

「あなた、死ぬのが怖いの。ガーランド・ヴィザーツなのに」

「玄街ヴィザーツは死を恐れないのですか」

「もちろんよ。あたしだって5年早く生まれていたら、攻撃飛行艇の射撃手をしてるわ」


『若すぎる』

カレナードは従妹の純な年頃を感じた。

「では、ラーラが攻撃飛行艇のパイロットになったとして、ガーランドに私が乗ってたら打つ?」


ラーラはきょとんとした。

「打つしかない。だってガーランドは敵だもの。でも、あなたはずっとここで捕虜でいるから……死なないわ」

「この顔を見ても?」


 グウィネスの殴打で頬にいくつも痣が出来ていた。

「グウィネス殿の拳には殺気がありました。明日、冷宮区の迎えがあってもおかしくない……」


 少女の中で急に何かがせめぎあった。

「そんな……駄目、あなたは……私の従姉よ。首領さまには悪いけど、駄目。なんとかしなきゃ。そりゃあガーランドは敵だけど、敵だけど、あなたは……」


カレナードの手が格子の向こうのラーラの手に触れた。

「従姉と呼んでもらえて嬉しい、ラーラ」


ラーラの指がためらいがちに女王の紋章をなぞった。

「あなたの手がこんなに大きいって知らなかった。私の母さんも大きな手をしているの、何でも出来る手なのよ……。ああ、母さんがいてくれたら、あなたを守れるのに」


 政務を終えたジュノアは息子を抱き、父と宵のひとときを共にしていた。クラカーナは酒杯を上げた。

「父上、お早い前祝いですか?」

「いや、これまでに流れた血への供物だ」

「戦いは今日のデコイのように簡単でありませんわ。玄街軍がミセンキッタ大河以西に押し込まれている今、ガーランドはミナス・サレの存在に気付いていると考えられませぬか」


父の顔になった領国主は「案ずるな」とだけ言った。


 じゅノアは作戦参謀室で半年に渡り論議されてきた二つの戦略を考えた。

 一つは全ての戦力をガーランドにぶつけ、短期決戦で沈める。その場合、各地のヴィザーツ屋敷の始末には時間がかかり、ガーランドを失ったヴィザーツの抵抗は強いだろう。


 もう一つは戦力を分け、ガーランドを攻めつつ、先に大山嶺に近いブルネスカとミルタ連合、そしてオスティアの諸領国を占領していく戦略だ。アナザーアメリカンを武力で支配し、玄街の兵站とするのだ。


 どちらにしろ、大山嶺の東側で遮二無二に戦い続ける未来が待っている。ジュノアは、父がその困難を見通しガーランド殲滅後の青写真を整える仕事を共に背負う前に確かめることがあった。


「父上、医局から報告がありましたか。あなたの女婿の死因詳細です。同じ事例が増えているのを御存知でしょう?」

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