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第2章 ヒロ、玄街コードの欠陥に気づく

「彼女は味方にして良いかもしれません。彼女と直の会談をお勧めしますわ。その時は、私も同席しとうございます」

「グウィネス・ロゥもだ」

「首領殿は工廠と参謀室の往来でご多忙です」

「彼女抜きにではならん。軍事区と執政官も同席だ」

「それでは拷問会になってしまいます。父上、彼女はガーランド女王とは違いましてよ」


「お前は何を考えているのだ」

「あの捕虜はカレワランに勝る人材です。玄街の洗脳ではあの才能が台無しになるでしょう」

「それほどとは、興味深い。が、グウィネスだけは呼ぶとしよう」


 ガーランドの甲板材料部に急ピッチで玄街仕様に偽装した小型飛行艇が現れた。用意された3機のうち、1機はテスト用で、これから大山嶺に向かうところだ。コクピットにはドルジンがいた。第一甲板でヒロ・マギアが慎重に行けとサインを送っている。その後ろでワイズ・フールが陽気に手を振った。


「イヤな野郎だな、フールめ。俺が無事に戻ったら、次は自分の番だから、ありゃ内心は戻ってくるなと念じているな。アホめ」

ドルジンは玄街の構築コード突破任務に出発した。

「俺の腕を舐めるなよ」


 女王マリラはその機影が消えるまで、女王区画のテラスで見守った。傍にベル・チャンダルがいた。

「ドルジンが成功したら私も行ってきます、マリラさま」

「なぜ志願した。玄街にとってお前は反逆者だ。命を捨てに行くようなものだ」

「罪滅ぼしをします」

「無用だ」

「もう作戦メンバーに登録済みです。カレナードと一緒に帰ってきますから、お待ちになっていて下さい」

マリラは折れざるを得なかった。


 ドルジンを見送ったヒロの工房にトペンプーラが来た。鼻歌交じりだった。

「上機嫌だねぇ、ジルー。何の歌さ」

「ミセンキッタ南部の流行歌デス、『あなたに傍にいて欲しい。緑の風が回るから』ってね、ふっふっふ。それでワタクシに協力して欲しいことって?」


ヒロは情報部副長と共に遮音室に入った。

「今から俺っちは玄街コードの113番を使う。ジルーは玄街起動コードを同時に唱えてよ。この二つを密着させたいだけさ」

凹凸をつけた段ボールと薄い紙があった。


「実験ですネ。向こうの起動コードは何とか身につけてます」

「じゃ、よろしく」とヒロの音頭で簡単な実験を10回繰り返し、全てを密着させてから20分後。

「これだよ、ジルー。113番が無効になってる。これ、玄街さんは気づいているかな」


 バラバラになった段ボールと紙を前に、トペンプーラは少しの間、沈黙していた。

「ミーナ・クミホ……彼女を疑ったきっかけは図書館の本でした。艦長が好きな恋愛小説を彼女はうかつにも玄街コードで補修してしまった。その本はすぐに壊れたのです。

 しかし、玄街も歴史は長く、大型爆撃機でテネ城に来るほどになりました。すでに克服した可能性は高いです。ミーナの場合は簡単すぎて、注意を怠ったか油断したか」


「あとさぁ、ガーランド・コードと玄街コードを同時に使ったことないんだ。互いに干渉するのか影響なしか、確かめたかったんだけど」

「止めておいて正解です。下手な実験で甲板材料部を吹き飛ばしたくないでしょ。やるなら緩衝地帯に専用実験施設を作って、捕虜にネイティブ発音でやってもらいたい」

「ジルー、やっぱりお前は怖いヤツ。」


「こちらも大山嶺で構築コードを使います。その時に備えが要るでしょ。潜入作戦までに検証です!」

「ジルー、俺っちにまた無理難題を?」

「何を今更。難題解決に燃えて下さいネ。ブルネスカ領国の緩衝地帯で、それ、やりますよ」


 ミナス・サレに捕らわれて16日目、カレナードは再びジュノアに召し出された。

 今度は奥宮でなく、城市の執政区にあるクラカーナ・アガンの接見室だった。茶と灰色を基調の落着いた部屋に、クラカーナ、ジュノア、カレナード、そしてグウィネスが立っていた。窓から薄く陽が射し、風が砂塵を運んでいる。


 ジュノアが全員に椅子を勧めた。最後にカレナードが座るとグウィネスが軽やかに言った。

「私はクラカーナ殿と捕虜の話を聞くだけだ。口を挟まぬゆえ、居ないものと考えてくれ」

 黒衣の女は帽子から垂れたベールを顔の横まで引き寄せ、静かに茶を飲んだ。

 ジュノアもまた茶を飲んだ。

 カレナードは挨拶した。

「クラカーナさま、城市建設の陣頭指揮官であられたと聞きました。艱難辛苦の事業を成し遂げられたことに敬意を捧げます」


 クラカーナは鋭い目を向けた。

「艱難辛苦か。若いくせに知ったふうに言う。紋章人、一つ聞くが、お前は玄街の命を奪ったことがあるか」

「テネ城で何人か撃ちました」

「紋章人と呼ばれる訳は何だ」

カレナードは左手の甲を見せた。

「私はゆえあって女王に命と名と魂を捧げる契約をしました。その時に刻まれたのが、この紋章です」

「その契約は有効なのだな」

「この契約によって私は女王に隷属する一介の訓練生でした。が、契約から10ヶ月後に隷属は終わりました。今は無効です」


「女王はお前をミセンキッタ領国主の後見人にした。そして愛人でもある」

 ジュノアが「父上」と老人を制したが、彼はカレナードの頬が赤くなるのを待ったが、彼女は優雅にうなずくだけだった。

「女王は良い趣味をいているな、ジュノア」

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