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最終章 キリアンの手紙に返事も書かず

 半年後、テネ城市における正式な女王お披露目は、マリラの追悼式でもあった。その最中、新女王は祭壇に突っ伏して号泣した。テッサ・ララークノを始め、トペンプーラ、シェナンディ姉妹とその伴侶たち、各領国とヴィザーツ屋敷代表団は度肝を抜かれた。


 マヤルカは夫のジェード・ニカムの袖を引っ張った。

「カレナードを笑わないでね。あれが彼女のいいところなのよ」

そう言って、マリラとカレナードのための涙を拭った。


 キリアン・レーはホッとしていた。

「マリラさまのために大観衆の前で泣くのだから、彼女は変わってない。そうでしょう、ピード・パスリ」

「確かにな。あいつの本質は変わりやしないぞ。確実にやらかしてくれる。楽しみだよ」


 ピードはカレナードの「やらかし」が我が身に降るとは考えもしなかった。新女王は極秘裏に次の女王を選び、教育を始めた。ピードとフロリヤの娘、アマドア・シェナンディ・パスリである。


「私はかつてマリラの生き脱ぎの場に遭遇し、ウーヴァの強い波動を体内に留めたのです。同時に背中に大怪我を負った。そのため、マリラさまは私の命はそれほど長くないと仰った。ゆえにそれがいつかは分かりませんが、アマドアを次代の女王に指名します。ヴィザーツの父とアナザーアメリカンからヴィザーツになった母、実に相応しいではありませんか?

 もし、アマドアの成人前に私の寿命が尽きたら、その間は、フロリヤさん、あなたが代女王を務めるのです」


 サージ・ウォールは収縮を止め、少しずつエネルギー減少へと転じた。

 誕生呪は変わらず必要であり、臨界空間は保たれていた。


 キリアンはサージ・ウォール観測隊を率いて何年も辺境の地を飛んだ。女王となったカレナードに、彼は毎日のように手紙を送った。


『新女王、フロリヤ号の改装進捗はいかがでしょう。私は東メイス領国エリーにて観測隊と共にあります。この付近のサージ・ウォールは暴風域が小さくなり、似たような現象は北東方面で数多く確認されました。今後も微妙な変化が続くと予想いたします……云々』


『新女王、昔、あなたとマヤルカ嬢が訪れたというオーサ市の食堂でこれを書いています。タコの揚げ物を注文し候。ガーランド新造艦の設計図がいくつか作られたとか。楽しみにて候』


『新女王、今夜はオルシニバレ市にて当直中。ミシコ・カレントの母君とあなたの噂話はきりがないほどに盛り上がり候』


『新女王、夏至祭にて、お目にかかりたく願う……心より……心より……。ミルタ連合、カチュア基地にて』


 フロリヤ号は主に女王専用機として、ミセンキッタ領国中部とオハマ2の間を行き来していた。

 カレナードはテネ城市郊外に新設された医療専門屋敷群に執務邸を持った。アライア・シャンカールが女官長として復帰し、イアカとニアが筆頭女官となった。キリアンの手紙はそこの女王私室に保管された。


 彼女たちは手紙の保管箱が三つ目になる頃、女王に進言した。

「また箱が増えましてよ。めったに返信もなさらず……」


 アライアが付け加えた。

「無礼を承知で申し上げますが、殿方であられた時期をお忘れでないでしょう。ほかの女性に心を傾けることもございますわ。カレナードさまは亡き女王以外に良き人をお持ちでしたでしょう」


カレナードには手痛い見解だった。彼女は読みかけのアナザーアメリカ法追加条項案の書類を執務室の机に置いた。

「マダム・アライア、その通りです。が、マリラさまの悩みが今になってひしひしと我が身に堪えます。女王の恋人、ないしは夫となった者が豹変しないとは限らない……」


イアカがさっと口をはさむ。

「陛下、キリアン・レー少佐にその心配はございませんわ。わきまえた方ですもの」

「そのような者に限ってということがあるから用心しているのです。イアカ」


ニアがつぶやいた。

「用心ですか? その必要はありません。彼は僻地任務ばかり望んで女王の近くに侍らないのですから。カレナードさまの考えすぎです。思い切って、彼の任地へ巡業……いえ、視察の名目でお出かけしてはいかがです?」


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