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最終章 イアカ、架け橋を作る

 遠く南方洋上でキリアンは中継された女王補佐の声を聴いた。彼は右手を握りしめた。

「スピラー隊、再度編成確認だ。予備役の飛行艇が加わった分、音響板が上手く重なるように位置を調整するぞ。空間の隙間を埋める感覚で行くんだ」


 彼は小隊を小刻みに移動させた。指示を飛ばしながら、数万人が同じように空間を覆う仕事をしていると感じた。

 コクピットにいる発声者はミナス・サレの若者で、本城の衛士だった。

「カレナードさんの声だ。僕は何度も彼女を警護したんですよ。レー隊長殿」

「それは初めて聞いた」

「女王になる人なら、サインもらっとけば良かったな」

屈託ない若者の願いに、キリアンは応えた。

「任務遂行だ。あとでサインをもらいに行こう。さぁ、そろそろ刻限だぞ」


 黒いサージ・ウォールは以前と同じように轟音を立てているが、前進速度はやや落ちて、突出部の勢いも緩くなった。最前線は油断なく、足並みを揃えた。離れていても上下左右にいる相棒たちと支え合い、呼応する感覚に満ちていた。


 マリラは第二甲板で激しく闘っていた。衛兵の何人かが倒れた。女官の1人もグウィネスの泥漿に飲み込まれて消えた。マリラは第一甲板から最後の飛行艇が離陸するのを確認した。


「イアカ、そなたの装備で第一甲板へ飛べるか?」

「もちろんです、陛下! それで、何をどういたしましょう」

「100メートルの架け橋の元を作っておくれ。そなたが向こう側に行けば、細いロープに構築コードを連結させて、皆で退避するのだ。退避のあと、即席の架け橋は外す。いい時間稼ぎになるぞ」


 イアカは甲板の端にある幾つかの装甲設備を解除コードで開放した。中に非常時用の消火ホースやロープ類があった。彼女はそこから手頃で軽い素材のロープを選び、端を設備の蓋に結んだ。


「では、行きます!」

イアカは風を読んだ。助走をつけて甲板から飛んだ。バッと膨らんだパラグライダーはいったん甲板から下降したものの、急激に上昇し、あわや第一甲板の下部に激突しそうになった。

「ファッ!!」

彼女は巧みに甲板の下に潜り込み、体を捻った。パラグライダーはくるりと回って第一甲板の下を通り過ぎた所で反転上昇した。


 ベル・チャンダルはイアカの左手が甲板端の誘導灯近くの金具を握り、見事に着地するのを見た。

「イアカはやりましたわ。マリラさま、構築コードを使います!」


 第一甲板のイアカも手伝い、5分で架け橋は繋がった。まさに仮設そのものだったが、第二甲板に残る12名が渡るには十分だ。マリラは玄街コードを発声できない者を先に行かせた。

「化け物には玄街の解除コードしか効かぬ。足手まといになりたくなければ渡れ!」


 グウィネスは橋の存在にようやく気付いた。

「馬鹿め、矢衾のえじきにしてくれるわ」


 橋に向かって、大量の矢が飛んだ。それを薙ぎ払うのは、ベルの防御壁連続コードだ。イアカも第一甲板から橋の底を伝う強化コードを続けて放った。ジーナがマリラを橋へ押しやった。

「お早く! しんがりはお任せを!」


ベルはそのジーナの背を押した。

「女官長さま、マリラさまと走って下さい! ここは食い止めてみせます」


彼女は橋に入ったマリラの声が「ベル!」と呼ぶのを聞いた気がした。

 グウィネスの攻撃はますます酷くなり、ベルの防御壁は少しずつ後退していった。マリラとジーナが第一甲板に着いた時、ベルは橋に飛び込み、入り口を封鎖した。

グウィネスの首がぐるりと回った。

「死ねやこれ、ベル・チャンダル!」


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