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最終章 第二甲板への道

 大宮殿へ歩きながらシドが言った。

「あれを完全に消滅させられるのか」

「ニアが教えてくれた。私の血が必要だ。ウーヴァと私の契約は血によって成される」

ジーナは「いけません、女王!」と遮った。

「生き脱ぎをなさらなかったのですよ。御身は不死とは言えません」


 マリラは一喝した。

「もとより承知! そなたたちはシド医師と共に本艦を去りなさい。今までよく仕えてくれた、礼を言わせておくれ」

ジーナもベルも首を振った。

「私たちでも時間は稼げます。サージ・ウォール停止作戦の完全な成功をぜひご覧にならなければ」

「ジーナ、そなたに何かあれば、エーリフに申し訳が立たぬ」

「脱出の飛行艇くらいありますわ。ところでイアカ。あなた、パラシュート装備を付けているわね?」

イアカは「分かります?」と肩をすくめた。


 マリラはシドを振り返った。

「第一甲板へ行ってくれ。バケモノのおかげで負傷者多数だ。そなたの手が要る」

「御意。またお会いしましょう、女王」

マリラは静かに「行け」とだけ言った。


 女官と衛兵たちが盾を構えなおした。

「防御円陣! マリラさま、構築コードを併用したします」

「よし、我らは第二甲板へ向かうぞ」


 グウィネスは触覚を伸ばし続けていた。視覚より針金状の触手で敏感に司令艦を探っていた。司令本部は破壊され、トマ・ルルの遺骸は残骸の下に埋もれていった。

「ガーランド・ヴィザーツども、逃げられると思うなよ、ふ、ふ、ふ。第一甲板から叩き落としてやるぞ」


 大宮殿前の大通りにグウィネスの白い顔が盛り上がった。それは高さ5メートルに及び、ズルズルと音を立てて第一甲板に進もうとしていた。周囲からはあの細い槍が100本以上生えて、退艦中の司令部員を狙う用意は万全だ。


 マリラはグウィネスを挑発した。

「グウィネスの成れの果てめ! たかだか1500年生きたくらいでバケモノに成り下がりおって。所詮は怨念で生きた証拠だな。お前の知恵も大したものでなかったな、トルチフの馬鹿娘め!」


 防御円陣は素早く大宮殿の脇道に入った。その動きはグウィネスの触覚を巧みに刺激し、追うべき完璧な獲物となった。バケモノの破壊衝動は舌なめずりして、それを追った。


 マリラたちは走った。大宮殿を迂回して第二甲板に出る道筋は半分が防御壁で埋まり、小型トラックさえ入れない。グウィネスの触手が迫るたびに、マリラとベルはミナス・サレの解除コードで撃退した。首だけのグウィネスが悪態をつきながら小道を這って来る。周囲の木立が音を立てて倒れた。


 マリラは振り返り、唾を吐いた。

「私の2500年を、お前は分からぬ。数々の失敗、失策、失政。それを越えて得た現在は、決して分かるまいよ。どうしたグウィネス、かかって来い!」


100本の槍がマリラめがけて飛んだ。ベルの解除コードが閃光を放ち、槍を塵にした。そうしてグウィネスはゆっくりと第二甲板に誘導されていった。


 第一甲板は第二甲板と平行しているが、その間には100メートルの中空があり、直接に行き来できない。第一甲板からはすでにフロリヤ号が発進していた。7番輸送艦への搭乗はほぼ完了し、ネラクが甲板に大タラップを降ろしていた。他にも数か所の外れ屋敷やテネ周辺から応援の飛行艇が待機していた。


 フロリヤ号の巨大格納庫では、設置可能なスクリーンと通信機器が並んだ。その奥は救護室となった。トペンプーラはネラクにいるバジラ・ムアと状況を確認中だった。

「女王補佐、バジラによると、女王はバケモノを第二甲板におびき出したと」


カレナードは時計を見た。

「30分で、ここまでやれたのです。各基地との通信を確認。フロリヤ号は常に司令艦から2キロメートルの位置に付けて下さい」


 彼女は通信室に入った。

「こちらは女王補佐カレナード・レブラント。全ての基地と人員に告ぐ。緊急事態につき、心して聞け。

 現在、司令艦は異形兵器と化したグウィネス・ロゥによって機能不全となった。総員退艦につき、司令本部の機能は大型輸送艦に移行しつつある。まもなく復旧するゆえ、各員は現場での調整を続けよ。女王は艦に残り、グウィネスと闘っておられる。


 停止作戦は続行する。司令艦を失う以上、次はないと心得よ。各員、奮起すべし。我々は任務をやり遂げ、女王に作戦終了を見届けていただかねばならぬ!」

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