表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/134

最終章 総員退艦

 カレナードの命令が全艦にこだました。

「総員退艦! 司令本部をフロリヤ号とその僚機に移す。第一甲板へ急げ!」


 トペンプーラとトマ・ルルが次々に指示を出す。

「スクリーンオペレーション1番から30番は、フロリヤ機。31番から110番はテネからの7番輸送艦。残り200番まではオハマの輸送艦ネラクへ!」

「通信機材を最優先で出せ。オペレーターと兵站部員は機材搬出し、そのまま輸送艦で脱出しろ」


 司令本部が迅速に移動を始めた時、グウィネスの声が大宮殿のホールに響いた。

「ふ、ふ、ふ。この体、なんと使い勝手の好いことよ。ウーヴァの加護を受けしガーランドならば、ウーヴァの加護を受けた我はどこにでも腕を伸ばせるというわけだ」


 カレナードの声もホールに響いた。

「グウィネスを相手にするな、急げ。トマ・ルル、機関部員の脱出は!」

「テネ西方屋敷の飛行艇が司令船後部に接近中。機関部は異常なし!」


 2人の間に壁の破片が落ちた。グウィネスの一部は白い針金となって大宮殿の壁に侵入し、針金の先を眼の代わりにして様子をうかがっていた。

「マリラの寝子の気配がする……ふ、ふ、ふはははは! 血祭りにしてくれよう、カレワランの息子!」


 トマ・ルルの頭上の壁が割れた。そこから白い針金ならぬ異常に長い腕が数本突き出た。トマは背後から異形の腕に絡まれた。

「お逃げ下さい! 女王補佐」


彼の最期だった。まだホールにいた者はトマが空中で息絶え、大量の血が流れるのを見た。


 カレナードは女王控室に飛び込んだ。トランクを一つ掴んだ。王冠と衣装、マリラから贈られた思い出が詰まったトランク。他は全て置いていかねばならなかった。

「大事なのはこの先だ」


 マリラの声が小型通信機に飛び込んできた。

「トペンプーラ、忘れるところだった。ガーランド母艦とアドリアン僚艦に伝えよ。あの艦船も私の血で建造したようなもの。司令艦の消滅で何かしらの影響があるかもしれぬとな!」


 カレナードは控室の扉を閉じた。

「サージ・ウォールが完全に止まったら、マリラ、あなたを迎えに参ります。どうか、どうか! ガーランドを失っても、あなただけは!」

トペンプーラが走ってきて、トランクを奪うようにして持った。

「女王補佐、トラックが出ますぞ」


 ホール内はグウィネスの攻撃で、天井の照明がほとんど落ちていた。オペレーターたちは機器を抱えてホワイエから外へ走っていた。残されたスクリーンと機材がポツポツと灯り、血のあとが光った。

 10分前に最初の班が防御壁の一部を解除してトラックで出ていた。その中に衛生兵に担がれたニアと女王衛兵がいた。


 カレナードはマリラが見えないかと荷台から身を乗り出した。宮殿前の大通りをマイヨールが駆けてきた。

「マダム・カレナード、女王からの伝言です」

「乗って下さい、マイヨール先生。伝言はそれから聞きますから」

第一甲板への緩やかな坂をトラックの群れが次々降りていく。

 

 マイヨールは負傷していて、伝言はフロリヤ号に達する直前に渡された。

『カレナード、私は大丈夫だ。ウーヴァの加護はまだ十分に私の上にある。そなたの義務を果たせ。怠れば許さぬ』

「さすがマリラさま」

「そうでしょう、カレナード。大丈夫ですよ、シド医師とジーナさんたちが付いていますから」

「マイヨール先生もフロリヤ号に乗って下さい。応急手当をしましょう、傷は浅くなさそうです」


 マリラはワイズ・フールを鞭で引っぱり、通りの石柱に縛り付けた。フールはこの期に及んで叫んだ。

「あんまりでござるよ、マリラさまぁ。小生、こんな死に方は嫌でござるぅ」

マリラは応えなかった。

「マリラさま、マリラさま、小生、本当はグウィネスにいいように使われただけ。このバケモノを哀れと思ってくだされ」

マリラは感情を出さずに言った。

「さらばだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ