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最終章 グウィネスの変容

 その声を拾った者がいた。フロリヤ・シェナンディ・パスリだ。彼女は前回と同じ任務中だった。

「司令艦内部が危ない」

フロリヤ号は司令艦に引き返すコースを取った。


 同じ頃、大宮殿の防御壁前にグウィネスが立っていた。道化はけたたましく嗤った。

「ケケケッ! お呼びでなくても即参上、ワイズ・フールの帰還なりやッ! ケケッ! おいっ、聴いてねぇのか司令部のボケェ!」

「二重の構築コードか、よくもガーランド・コードに玄街コードを重ねたものだが、我を阻めると思うてか。ナノマシン残滓で出来た体だぞ、あははははは」


 白い塊が再び防御壁に入りかけた時、後ろから宮殿衛兵が狙撃した。フールが叫ぶ。

「痛い、痛い、お止めになって! なんちゃって! そんなの効きやしねぇよ、お尻ペンペンッ!」

銃弾はグウィネスの体から、逆に衛兵たちを襲った。女王区画から降りた女官の盾が何人かを救った。ジーナが叱っている。

「飛び道具はダメと伝えたはずよ。トリモチを投げた方が効くかしら」


 シド医師の戦闘服にはニアの血が染みていた。

「試しにグウィネスにミナス・サレの解除コードを放ってみる。あれはおそらくナノマシンを複雑に強化結合した物体だろう。行くぞ!」


彼の両側にベルとイアカが盾を構え、グウィネスに近づいた。魔女は振り向いた。足元から白い棒状の物体がにょきにょき生えた。イアカが言った。

「うわ、気持ちワル。あれがグウィネスの武器かしら」

白い棒はポキリと折れて飛び、ベルの盾に刺さった。シドが刺さった棒に解除コードを使うと、サラサラと崩れ、盾に穴が残った。

「なかなかヤバい代物だが、弱点の一つだ」


 彼はグウィネスめがけ、解除コードを唱えた。グウィネスの前に躍り出たワイズ・フールがコードをもろに浴びた。

「あひゃっ! き、き、き、効くうー! 痛い、痛い、マジで痛いでござるよ!」


 のたうち回るフールに目もくれず、グウィネスは再び白い槍を女官たちに浴びせた。その攻撃の隙をついてシドの解除コードがグウィネスを直撃した。彼女の形が大きく揺れた。首がずるりと落ち、白い泥漿と共に地面に転がる。


 シドは3度解除コードを唱えた。グウィネスの腕も胴体も泥漿の中でどろどろと融けていた。化け物の声がどこからともなく聞こえた。反響板を通したような不思議な声だ。

「我を倒したいか、マリラ。ふ、ふ、ふ、不可能だぞ。シド、解除コードなぞ一時的効果、むしろ我にとっては良い機会を与えてくれた。ふ、ふ、ふ」


 泥漿から細い線が大量に生えた。それは地面を素早く這い、急速に大宮殿へと伸びた。防御壁の下に潜り、あるいは巧みにすり抜け、司令本部を狙う速さだ。


 フールは痙攣しつつ、叫んだ。

「アイェェ、グウィネッス殿。ここからがお楽しみでござるよ、ケケッ! マーリラァー、小生、女王陛下が血まみれにになる姿が見たいでござる、ケケッ!」

頭にきたイアカがトリモチを投げた。フールは喚いた。

「お馬鹿ですねッ、小生より糞ったれの司令本部でも心配しやがれですよ、キエエェッ! トリモチ、嫌いッ」


  トペンプーラの無線機が警報音を鳴らした。

「女王、どうなされた!」

「まずいぞ。グウィネスは司令本部を狙っている。あれは自分の体を自在に変形させ、司令艦を乗っとるかもしれぬ。作戦を続行しつつ、総員退艦しろ。不可能と言うなよ、トペンプーラ」


参謀室長は即座に返した。

「可能にしてご覧にいれます」

「よし。これより全員に告ぐ。通信をオープンにしろ」


 マリラの声に晴ればれしたものと痛々しさが混じっていた。

 トペンプーラはオープン回線に繋いだ。

「こちらはマリラ・ヴォー。司令艦の諸君、本艦はグウィネス・ロゥの怨念に物理的に侵されつつある。3回目の発声まで1時間だ。20分で総員退艦しろ。各基地との通信可能な輸送艦に部署ごと移れ。


 女王補佐は作戦を率いよ。第一甲板のフロリヤ号を司令塔とせよ。

 私は本艦もろともグウィネスを消滅させる。これは私にしか出来ない仕事ゆえ、そなたたちは私の邪魔をしてはならぬ。退艦にかかれ!」

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