表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/134

最終章 ニアの霊力

 トペンプーラはポケットの通信器で、マリラの状況を知った。

「トペンプーラ、飛び道具が効かぬ。道化はともかく、グウィネスは全てを弾きかえす。執務室は全壊だ」

「女王、衛兵小隊に巫者のニアとマイヨール女史を付けて急行させます。オハマ2からシド・シーラ医師が間もなく到着。ミナス・サレ・コードを使えます」


「作戦は進んでいるか」

「順調デス、女王補佐は落ち着き払っています」

「頼んだぞ」


 マリラはエントランスまで女官とともに退避し、ガーランドの構築コードで防御壁を出現させた。グウィネスと道化の背後に回り込み、防御壁で2人を包み込む作戦だ。

 道化の体は銃弾を受けてもすぐに再生した。グウィネスは直立のまま、のろのろと床を滑り、マリラを罵倒していた。

「我が玄街の反射砲はサージ・ウォールを動かすために作られた。お前が後手に回ったせいで、アナザーアメリカは滅ぶ。もっと早くにセバン要塞を攻めていれば、臨界空間は大人しくしていただろうに。愚かな女王、お前のために無辜の人間がどれほど苦しむことか」


 マリラは相手にしなかった。エントランスは長く、バケモノ2体を取り囲むには絶好の場所だ。女官たちが一斉に構築コードを唱えた。わずか5秒で半透明の防御壁が生成し、グウィネスと道化を半球内に閉じ込めた。

 道化が喚く。

「ぎぃっ! あんたら、チャチな仕掛けで閉じ込めようって魂胆!」

道化は防御壁に蹴りを入れたが、足がねじれただけだった。

「止めておけ、フール。玄街の魔女は平気だ」


 白いグウィネスは張りついた笑顔のまま、自ら防御壁にめり込んだ。その物体は少しずつ防御壁に浸透し、時間をかけて半球の檻から抜け出そうとしていた。

 まさにその時、サージ・ウォールに沿って、ミナス・サレ停止コードの音膜が発生した。トペンプーラがタイミングを計り、カレナードの号令で8600地点から大音量が放たれた。マリラの通信機が3回鳴って、それを知らせた。

 同時に衛兵隊と巫者、そしてシド・シーラのミナス・サレ・コード小隊が女王区画に上がってきた。


 マリラは笑顔を見せた。

「よく来てくれた」

シドがヘルメットを直しながら言った。

「現在、サージ・ウォール全周を観測中。完全に停止が認められない場合、もう一度発声する体勢でいるとトペンプーラからの伝言だ」

「了解だ、シド。あれをどう見る」

マリラは顎をしゃくった。シドは冷静だった。

「ガーランドの防御壁はグウィネスの敵ではないようだ」


 ジーナは盾を立てた。

「残念ながら。シド医師、ミナス・サレ・コードで使えるものは?」

「あのバケモノが何で形態を保っているのか、様子を探りたい。先に巫者の力を試してくれ」


 ニア・キーファはガラス玉の首飾りを幾重にも付け、手には水晶の指輪と呪具、頬と目じりに白と青の化粧があった。彼女はグウィネスの前に出て、朗々と大地霊への呼びかけを始めた。マイヨールと衛兵は弓を弾き、鏑矢が青天にごだました。


 グウィネスは、まだ防御壁の中だ。

「は、は、巫女など連れてきたか、シド・シーラ。何の役に立とうぞ、その者」


 5発目の鏑矢が放たれるや、ニアは地に突っ伏し両腕を広げた。

「大地の精霊よ。我の血に応え、魂の法から外れし者を元の法に載せるに力を貸し給え。応えよ、ウーヴァと呼ばれし大いなる存在よ、我の血と魂を預けるべし」


 ニアの両手から血が滴った。ニアはくぐもった声で異常な詠唱に入った。グウィネスの動きがピタリと止まった。マイヨールは分かっていた。

「グウィネスの異形は危険極まりないのだわ、ニアは即座に反魂を仕掛けると判断した」


 マリラはウーヴァの気配を身近に感じた。闇でありながら温かく、一瞬の白い光である大地精霊は彼女の足の下にあった。それはニアを通じてグウィネスにも繋がっていた。身震いするほどの冷たさがマリラを襲った。グウィネスの冷気だ。


 ニアは身を起こし、指先の血をグウィネスに塗った。

「ガハァッ!」

魔女の怒声が響き、再び白い泥漿が飛び散った。

「おのれ! 我を浮き船の心臓から引きはがすなど不可能! 小娘ッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ