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最終章 停止作戦、第1日

 21日の早朝、司令艦は高度を上げた。眼下の街は報道機関や奇跡を願う人々でいっそうあふれた。

 

 マリラとカレナードと女官たちは戦闘服に身を包んだ。ベアン市時刻の6時すぎには司令部に入り、時刻合わせのために待機した。6時50分、マリラは司令部の中央にいた。

「こちらは女王マリラ・ヴォーである。30万の前線の人々よ、本日はアナザーアメリカの命運をかける日だ。かつて、偉大な指揮官は『各員がその義務を果たすことを願う』と信号旗を上げた。私はオンヴォーグとともに、その言葉を皆に贈る。

 これよりサージ・ウォール停止作戦の時刻合わせを行う。参謀室長トペンプーラの合図をゼロ時刻とせよ」


 時刻合わせは滞りなく済んだ。1時間後、16の基地から7100機以上の飛行艇およびトール・スピリッツとスピラーがサージ・ウォールに向かって飛び立った。

 キリアンとアヤイはミセンキッタ大河河口から南へ500キロメートルの海上に。ピード・パスリはセバン高原から350キロメートル北の平原に。カレナードの膝の上の名簿に名を連ねる30万人が危険と隣り合わせの任務に向かって出発した。


 少し前、フロリヤ号とその僚機は通信障害になりそうな報道航空機を監視するため、第一甲板を離れた。フロリヤ号には副操縦士と通信観測士、そして狙撃手がいた。格納庫には小型グライダーがあった。それはピードがフロリヤに贈った逸品だ。


 通信観測士が邪魔な音波をとらえた。

「フロリヤ機長、北西方面に警告すべき機影アリ!」

双眼鏡を使うと、識別マークのない小型機が飛んでいた。副操縦士も確認した。

「あれ、有力新聞社にスクープや捏造まがいのネタを提供してるフリー何とかですよ。テネ城市じゃ名の知れた曲者だ。やりますか、機長」

「警告弾、用意! テェ! 3分後に反応なしの場合、次弾発射!」


 狙撃手は言った。

「警告弾の次は威嚇射撃ですねッ、フロリヤ機長!」

「落ち着きなさい。弾は当てないようにね」


 司令部の空気は落ちついていた。天候チェックは絶え間なく続き、各基地から出発した部隊が散開して、所定の位置に付くのが次々と報告された。


 アレクは担当のスクリーン上に8枚翅の飛行艇を表す赤い点を入力していった。管制官からインカムに部隊名が矢のように告げられ、隣にいるチェック係と息を合わせた。

 彼の前のスクリーンはベアン市西方のアーブルカ高原を中心とした150平方キロメートルを示していた。飛行艇の数は他のスクリーンより少ない26機だ。海抜0メートルの海上では同じ150平方キロメートルに39機が表示されていた。


 8枚翅のおかげで、1機で4平方キロメートルのウォール面をカバーできる。わずか3ヶ月足らずで、ここまで性能を上げたのは奇跡に近い。


 リハーサルは何度かあったが、30万人がサージ・ウォールの前にいる現実は圧倒的だった。全スクリーンに予定の赤い点がともるまで40分かかった。各基地からの報告はまだ続いている。

「第8基地・ベアン、レニア大回廊付近で小規模な砂嵐発生。少し待ってくれ」

「第11基地・アルバ、もう少しかかるぞ!」

「第14基地・エリー、あと5分くれ」


 トペンプーラは管制官に合図した。

「作戦開始から60分をめどに体勢を仕上げるように。7100機は僚機一体となってからコードを遣うのです。焦るなと伝えなさい」


 マリラとカレナードは司令部の動きをバルコン1階から見ていた。2人の役目は作戦の旗振りと大局の見極めにあった。不測の事態にトペンプーラと共に即座の判断を下すのだ。


「そのようなことがないのが一番だが、相手はサージ・ウォールであり、30万人が一糸乱れぬ行動をとるのは難しい。カレナード、そなたはなぜ分厚い名簿を用意したのだ」

「私はやっとヴィザーツ8年目ですから、女王職を継ぐ覚悟をこの名簿で強くしたいのです。総務局が手間をさいてくれました」

「そなた、肩に力が入っているな。今日は長い1日になるぞ」

「午前中に1回発声出来るでしょうか」

「ああ。だが、午後はどうなるか分からぬ……」


 8枚翅の音響版が鳴ったのは、それから45分後だった。高さ3キロメートル、全周9250キロメートルのサージ・ウォールに沿って均等配備した飛行艇から一斉にミナス・サレ式の停止コードが放たれた。毎秒15メートルの強風に消えないよう、音声出力は低音から高音まで強くクリアに調整され、音量は雷の如き奔流となった。

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