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第6章 青い夜に宿命を受けて

「名簿の管轄はどこが?」

「総務局ですが、何か」

「私にも1部下さい、トペンプーラさん」

「厚さ6センチの辞書に相当しますよ」

「必要です。私に女王補佐を命じたなら用意を。それから、いつマリラ女王はオハマ2に来ますか」


 トペンプーラが答えるのに一瞬のためらいがあった。

「それより前に、あなたが司令本部に行くことになりますヨ」


 カレナードは椅子を蹴った。

「参謀室長に訊きます。マリラは私に何を秘密にしているのか、御存じでしょう?」

「短気を起こさないでくだサイ。それは女王からあなたに話すとだけ承知しています。ワタクシを困らせないでネ、カレナード」

「……すみません、トペンプーラさん。あなたに怒るのは間違っていました。マリラの考えが分からないので」

「女王職をお受けなさい。新参訓練生のあなたに女王代役を命じた時、ワタクシの眼は節穴でないと言ったでしょ?」 


「でも……なぜ私なのですか」

「不安デスか。無理もない。しかし、ワタクシたちが支えますので、あなたは皆を鼓舞してください」

「それだけで済むわけないでしょう。女王なんて僕に出来るわけがない」


「都合よく少年に戻っちゃダメです。明後日、ワタクシと一緒にここを経ちます。あの冠を自分で付けてご覧なさい。そして心を決めなさいネ。あなたの宿命です」


 カレナードはジュノアを訪れた。ミナス・サレ副領国主の顔を見ておきたかった。

夕刻に息子をあやす彼女の横顔は母のそれで、副領国主の影はない。

「意外でも無いことよ、カレナード」

そう言ったとたんにジュノアの頬が引き締まって見えた。


「あなたの意識が少々ぼんやりしてるだけだわ。何が言いたいか、分かる?」

「あなたに伺いたいのは覚悟の決め方です。情けないと仰らないで下さい。クラカーナ殿があなたを領国主にする時、どうやって」


ジュノアは手を挙げてカレナードを黙らせた。

「あなたはほぼ決心しているわ。いいのよ、マリラさまとは違う女王職になるのですから戸惑いは大きい。世界の変わり目をどこへ向かわせるのか、判断を誤るのが怖いのでしょう?」

「それもありますが、もしマリラさまに何かあれば……私は……」


 ジュノアはそっとカレナードの肩に手を置いた。

「マリラさまが最も避けたいのは女王不在によるヴィザーツの混乱です。あなたもミナス・サレで、いえ、先にミセンキッタ領国で感じたでしょう。統率者がいない、あるいは複数いることの難しさ……」

「違うのです、そういうことではなく、マリラは私が死んでも生きるはずなのに」


 ジュノアは再び遮った。

「今のあなたは、恋人を失う怖れに屈し、ただの人になっています。女王代理でも紋章人でもない。仕事と私情は分けなさい、カレナード!」

「ジュノアさま、教えてください。支え合った人を失った時、どうすれば?」

「夫の魂がラハトサイに去った時、私には役目があった。自分が何者か分かっている限り、青い夜に、大いなる精霊に生かされているのが分かったわ。カレナード、自分を見失わってはいけない」


「……マリラが……役目を全うするために青い夜に生かされている。私もそうなのか?」


 ジュノアは目の前の女が深呼吸し、何かを決めたのを察した。

「カレナード、次に会う時は花の冠を見られるわね」

「全てはマリラに会ってからですが……話を聞いていただき、感謝します、ジュノアさま。私はガーランド司令本部へ参ります」



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