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第6章 ルビン・タシュライのハンカチ

 彼女はもう一度文面を追った。


『カレナードに告ぐ。

 私は次の春分に生き脱ぎはできぬだろう。ガーランドは元の姿に戻ることなく、残る母艦もさらに分けてしまえば、ウーヴァの加護は薄くなる。この体がいつまで持つか自分にも分からぬ。

 だが、女王は停止作戦の最終責任者であり、号令をかける存在だ。そなたは花の王冠を着けよ。作戦中、私に何があろうと己の職分をまっとうせよ』


 指が震えていた。マリラに一体何があったのか。

「マリラさま、こんなのはイヤです……あなたの真意をお聞かせ下さい。いえ、それでも納得しない限り、あの冠を着けることはできません……」


「どうした、紋章人。お前さんが泣くのは初めて見たぞ」

目を丸くしたルビン・タシュライが立っていた。

カレナードは急いで顔を拭ったが、後の祭りだ。

「な、何でもありません」

「今更何だ。ミナス・サレでもここでも女王然としているお前が取り乱して。大方、マリラ殿のことだろう」


 カレナードの眼から再び水が流れた。タシュライは喜んだ。

「ほれ、図星だ。皆が言ってるとおりだな、紋章人はマリラ殿のこととなると人が変わると」

「私が? そんなに?」

「自覚がないか。何にせよ、それほど動揺する知らせが来たのだろう。そこで考えてみるがいい、その知らせをよこしたマリラ殿の真意をな」


 タシュライはポケットから布を出してカレナードの顔をぐいぐいと拭いた。

「痛い痛い、タシュライ殿。そのマリラの真意が分からないのです」

「では、マリラ殿のお気持ちをお察し下されよ。それが出来ない紋章人ではあるまい? お前が泣くと分かっていても、女王は手紙を記さねばならなかった。そうではないか?」


 1時間後、トペンプーラは神妙になったカレナードに作戦の肝を語っていた。

「3月13日に全軍がそれぞれの基地に集結します。セバン高原の北に5ヶ所、東メイス領国からカローニャ領国にかけて4ヶ所、オーサ市を中心とします。南方洋上は戦艦ビスケー、アドリアン、バルト、ロリアン、およびガーランド母艦を基地として配置。オスティア領国から大山嶺には3ヶ所です。他に比べて地の利が有りますから」


 カレナードは地図から目を離さなかった。

「そうですね、大山嶺が自然の盾になっている。それにブルネスカとミルタ連合にはまだ余裕がありますから、不測の事態にそこの予備役を投入できます。テネ城市中心に16方位配置、厳しいのは北と南。北はまだ冬、南は陸から600キロメートル先の海。装備は手厚いのでしょうね?」


「その点はマリラ女王も気に掛け、戦艦を全て洋上に回しました」

「ガーランド母艦は分けたのですか?」

「現在、作業中デス。大宮殿と女王区画と後方機関部を司令本部にし、テネ城市西方に駐留。第三甲板と第四甲板を中心にした母艦を戦艦と共に南へ送ります」


「作戦人員数はガーランドとミナス・サレ・ヴィザーツの他、民間からはどれほどの数に?」

「対ウォール飛行艇が7100機。搭乗者は3名、パイロットと発声者、コ・パイロット。海上任務に補助人員を1~2名つけます。約30万人がサージ・ウォールに直接対峙します。そのうち、民間人は航空会社や特殊海難警備隊から5万人」


カレナードは頷いた。

「各方面の基地はすでに稼働を?」

「洋上を除き、先月下旬に兵站部が準備を完了し、現在は通信設備を中心に最後の点検中です。洋上勤務の戦艦はミセンキッタ南部で補給中、作戦の1週間前に陸地を離れます。輸送艦を含め、基地の人員総数は7万人に上ります」


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