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第6章 罪と罰の交渉を

「あなた方の玄街への恨みは早々消えるものではない。そうだろう?」

クラカーナ・アガンは灰色のローブに身を包み、頭をフードで覆っていた。苦行僧のようだった。業者たちの前で、彼は名乗った。

「儂はミナス・サレの領国主である。元玄街の代表者として、アナザーアメリカに与えた戦争の惨禍をお詫び申し上げる」


 業者たちは罵った。

「詫びだと! 言うだけなら何とでも言えるぞ!」

「オレの家族を返せ! オレが仕事で出た間に反射砲で殺されたんだ。一緒にトラックに乗せていれば死ななかったのに!」

「ミナス・サレと名を変えても、お前らは玄街だ。汚い犯罪者の血が流れている」


 クラカーナはありとあらゆる罵声を浴びた。彼は静かに腕を広げた。

「あなた方の恨み、怒り、悲しみ、悔しみ。儂はこの身に受けよう、長くない命だ。打ち据えるなり、殴るなり、好きにしろ」


 カレナードは驚いた。

「いけません、領国主殿!」

「来るな、女王代理よ。これは彼ら被害者と我、加害者の調停である。第三者として見届けよ、ガーランドの如く。

 さて、あなた方が行動に出るまえに一つ述べておく。我が領国民は確かに悪しき先祖を持ち、悪しき殺戮兵器を使った。その代償に領国を丸ごと失った。

 今、我々はサージ・ウォール停止のため、ガーランドに協力している。それがあなた方への償いである。我々はこの行いによって、玄街の血を消していく。行いこそが道しるべになると信じているからだ」


 業者の誰かが言った。

「所詮はきれいごとだ」

 別の誰かが言った。

「そうか? ガーランドと協力しているなら、それほどクズではないかもしれん」

「いや、血は水より濃い。玄街の子孫はどこまで行っても玄街だ」

「爺さんが言いたいことは、行いが人を変えるということだ。つまり教育の力だ。俺たちとて、ガーランドの調停では無作法ご法度を学ぶじゃないか」

「では、オレたちの恨みはどうする? どこに置いておけというんだ」


 業者たちの間で議論が続いた。カレナードはいざという時は女王の強権を持ち出し、クラカーナを監禁の名目で保護しようと考えた。が、1000年の調停の作法がアナザーアメリカンに根付いているのを目の当たりにし、マリラがするように鷹揚に構えることにした。


 1時間近い話し合いの末、クラカーナを丸刈りにすると決まった。業者たちは手持ちの剃刀をカレナードに渡した。

「あなた方が直接なすべきではないか」

彼女が理由を問うと、業者たちは一斉にひざまずいた。

「玄街を罰するにふさわしいのはガーランド女王でございます。我々は手が震え、老体を傷つける恐れがあります」

「よくも言う。クラカーナ殿、よろしいか」

「やってくれ、女王代理」


 こうして彼の残り少ない白髪は床に落ちた。

「ふむ、悪くないぞ。あなた方は儂の髪と引換えに仕事を失うわけだが、後悔しておらんのか」

クラカーナの言葉に一同は改めて互いを見た。やがて1人が言った。

「野蛮な心根だった。私たちにはもはや資格がないかもしれないが、やり直す機会をいただきたい」

賛同者は次々に申し出た。


「ふむ。女王代理よ、この際、彼らに工廠で作っているものをご覧いただこう。自分の生業が世界に直結していると知れば、ふさわしい行いになるものだ。ジュノアを呼んでくれ」

 ジュノアは走り始めた息子を連れて来た。

「じぃじ!じぃじ!」

子供は祖父の頭を撫でまわした。

「じぃじ、つーうつう!」

「孫よ、回らぬ舌でそう言うのか」

頑是ない一幕に一同は笑った。


 ジュノアが先導して業者たちが工廠へ消えるとカレナードはひざまずいた。

「クラカーナ殿、お許し下さい」

「それより記録係に工廠見学の様子を撮影させて、報道機関に流せ。ミナス・サレ・ヴィザーツの株をあげてくれ。アナザーアメリカを救う一翼であると知ってもらいたい。互いに必要なのは正しく知ることだ」


 アナザーアメリカ各地で小規模な紛糾やパニックが多数起きた。ガーランド・ヴィザーツはかかわる余裕がなかった。部隊編成が行われ、手持ちの機体で訓練に入った。

 同じ頃、各領国の民間航空会社は各地のヴィザーツ屋敷を介してガーランドと契約を結んだ。こうして作戦の全体像が次第にアナザーアメリカンに知られていった。トペンプーラは作戦の正式発表を2月中に行うと決めた。


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