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第6章 玄街とミナス・サレと

 女王はアンドラに声をかけた。

「セバンに置いてきたカラ艦や玄街戦闘艇に使い道はないか」

「カラの部品を回収するなら早い方がいいですな。玄街のマシンはミナス・サレに任せるのが一番でしょう。どのみち、ガーランドとミナス・サレ、アナザーアメリカ民間の航空機関で編成するのですから」

「後方支援も含めればそうなるのだな、トペンプーラ、エーリフ」


2人は同意した。

「セバン高原戦以上の大編成になりますヨ、女王。ヴィザーツもアナザーアメリカンもしぶといですから、女王はとにかく叱咤激励なさいませ、我々を追い立ててけっこうデス」

「では、作戦参謀は部隊編成を急げ。停止作戦日を皆に告げられるように」


 こうして戦艦アドリアンはマイア半島に移動し、実証実験の仕上げに入った。マギア・チームは実験班と反響板製作班に分かれた。戦艦ビスケーとロリアンがセバン高原に派遣され、厳寒の中、急ピッチの回収作業を始めた。


 カレナードは難しい立場にいた。全ては「女王代理」という肩書のためだ。朝から秘書のニアが処理案件の束を揃えて待っていた。

「カレナードさま、何かにつけ、面倒ごとはここに集まりますね。重要な件を上にしてあります」

「ニア、呼び捨てでいい。『さま』が付くとぞわぞわする」

「いけません。私はマリラさまから直接言われました、女王代理にふさわしく扱えと。女王陛下にはお考えがあるのです」


 華レナードは承諾した。これも女王直属遊撃隊の任務だ。

 彼女は最初の書状を取った。 


 ガーランド直轄基地であるオハマ2の実態はミナス・サレ市だ。住人の大半がミナス・サレ民で、アガン家と領国府の面々が揃っていれば、自然とオハマ2はミナス・サレの慣習で動く。それは支援に入ったミセンキッタ領国のヴィザーツとの間に摩擦が生じる元になった。

 技術者同士は同じ目標を持ち、摩擦を起こす暇はない。が、大多数を占める元玄街の民は、簡単にミセンキッタ流になじめない。


「大半がケンカの仲裁です、カレナードさま」

「物騒なもの以外はクラカーナさまに頼みます。では、ミセンキッタ・ヴィザーツのストライキ回避から行きましょう。ニア、この衝突の件を調停の予行演習にできるだろうか」

「一石二鳥と言いたいですが、いきなりミナス・サレの人に作法を説明して納得します?」

「でも、最初の一歩は大切だ。ジュノアさまかシーラ医師に同行ねがおう。納得とまでいかずとも、聴く耳を持ってもらえる」


 忍耐力と克己心が試される毎日だった。浮き船ともテネ城ともミナス・サレとも違う難しさがあった。

 彼女は有事の時のマリラのように髪を束ね、前髪をはねあげた。常にマリラの紋章入りマントを着け、先頭を歩く。マリラのように。


 物資搬入業者によるミナス・サレ民への嫌がらせが多発していた。彼らはミセンキッタ民で、反射砲の恨みがあった。双方の水面下に敵意が広がり始めた。

 

 カレナードは業者たちを集めた。

「私から見えなければミナス・サレ民を攻撃しても構わないと誰が言ったか。ロンテ商会は穀物の値を勝手に上げた。ゴユ大商は粗悪な布を大量に持ち込み、正規の値を要求。チナン社は規格外の鋼材を寄こした。他にもあるぞ、水で薄めた薬! 腐りかけの藁半紙! 泡立たぬ石鹸!」

彼女はリストを掲げた。

「ここに記された者との取引は今回限りの上で、罰金を課す。異議がある者は?」


 ロンテ商会の番頭が前に出た。

「女王代理、罪人に上等のパンを与えることはない。ミセンキッタで何万人死んだことか。人も町も畑も黒こげになった。誰がやった? ここにいる連中だ。彼らは罰を受けるべきだ」


 ゴユの配送運転手は拍手した。

「玄街に復讐したがってる連中を知っている。オレの良心にかけてこの場所を教えたりはしないがな」

 鉱工業社の専務は真っ向から反駁した。

「ララークノ家の口利きで優先的に鉱材をこちらに回しているんだ、それも随分と後払いでな。玄街は今まで私たちから奪った金があるだろう? 女王代理に即金払いの気がないなら、喜んで手を切る」


 カレナードは彼らを睨んだ。

「あなた方の仕事がサージ・ウォール停止作戦に繋がっていることをお忘れですか。それとも御存じないのですか」

「まぁまぁ、待ちなされ」

集会室の隅にうずくまっていた老人がゆっくり頭を上げた。


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