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第6章 ウォール停止作戦まで実質75日

「私はいつまで女王代理を務めるのか?」


 彼女は自分がずっとマリラの庇護下にいたと痛感した。ミナス・サレに捕らわれた時でさえ、そうではなかったか。ミセンキッタ領国に近い場所で代理を務めるなら、さらに大きな視野と細かい配慮が必要だ。

「ミセンキッタだけじゃない、各領国の交渉は絶妙のバランスが要る。ミナス・サレの方々にも学んでいただく……。ある程度は出たとこ勝負になるか」


 月に向かって腕を伸ばした。

「どうか私に知恵と広い心を……マリラと同じくらい強くなってみせますから、どうか助けて下さい……私はウーヴァには言えません。代わりに青い夜の光を力にしたいのです」

その夜、彼女はしっかり食べて何も考えずに眠った。翌朝、アガン家を見舞った。


 ジュノアは朝陽の眩しさに笑っていた。

「なんて空なの、それに静かだわ。父上、鳥のさえずりが、ほら、あんなに」

「ジュノア、まるで小娘のようにはしゃいでおるのぅ」


 先に避難していた侍女たちは、もう広い空と明るさに慣れていた。

「ジュノアさま、ここでは虹もたいへんはっきりしていますよ。昨夜は月光がまるで真昼のように。ご覧になりまして?」

「疲れてて覚えてないわ。そんなに明るかったの」

「カレナード殿が月に向かって何やらブツブツ言ってましたわ。少し不気味でしたから、見なかったことに」


 クラカーナは苦笑していた。

「紋章人はそれくらいが良い。彼女に調停を進めるよう伝えてくれ。新しいミナス・サレ都市計画をスタートさせるには、まず我々を認めてもらわねばな……」

「ガーランドは作戦中です、応じるでしょうか」

「当方に調停の意思ありと発信するのは大事である。アナザーアメリカの嫌われ者だった我々だ、簡単に受け入れられると思わぬ。罪は罪である。ミナス・サレは傲慢であってはならんのだ」


「ミセンキッタから新聞記者が来ていますわ。記事にしていただきませんこと?」

「それも戦略だな。まず好印象を広めてもらおう。さて、領国主の仕事は各地で避難中の民を束ねることからだ。ガーランド輸送艦の搭乗者記録と領国府の戸籍を執政局員に照合させ、連絡網を確保しよう。いつまでもガーランド女王に頼っていると大きな借りを作ってしまう」


「父上、私はカレナードに大きな恩が出来ましたわ」

「何だ」

「あなたを嵐の中に置き去りにせずにすみました。以前のまともな領国主の顔に戻っておりますよ、父上」

「ふん! 儂に麻酔を使いおった! 無礼千万だが、お前に免じて許してやる。まったく朝陽が眩しくてかなわんのぅ……」

クラカーナは手袋で目頭を抑えた。


 次の実証実験場はマルバラ領国南方のマイア半島の先に決まった。戦艦アドリアンを基地にして洋上実験を行うと同時に、オハマ2の工廠で8枚翅の大量生産が始まる。マギア・チームが出した物資の試算を前に、ガーランド上層部は頭を抱えていた。


「なんてこった……」

エーリフはもう一度試算の数字を見た。

「なんてこった。3月初旬に予備を含めて15000機だと。全ヴィザーツ屋敷の飛行艇を掻き集めても足りんぞ。なぁ、トペンプーラ。いっそラジオ放送でミナス・サレ・コードを流す作戦にしないか」


「バカ言っちゃだめですヨ。大山嶺の西側でさんざん試しましたがラジオ音声は効きません。サージ・ウォールは贅沢で肉声じゃないと納得しない。揃えるしかありません。これでも8枚翅のおかげで機体数を大幅に減らせたんデス!


 3月下旬にウォールが大山嶺の半分を越えマス。5月にはオスティアもブルネスカもミルタ連合もカローニャも東メイスも機能不全に陥りますから、3月中に作戦決行デス!

 ま、ウォール全周が少しは短くなるのがわずかな救いでしょう」


 ヒロ・マギアは淡々としていた。

「ホバリング機能付き飛行艇はここオハマ2で建造します。ミナス・サレの技術者を集めて反響板も同時に製造すれば手っ取り早い。引続き、ミセンキッタとミルタ連合からの資材供給を頼みます」


 アンドラ情報部長がファイルをめくっていた。

「飛行艇の整備点検と新規建造ができるヴィザーツ屋敷、つまり無傷で残った基地はわずか140ほどだ。外れ屋敷では整備しか出来ないが、この際、部品だけでもいい、建造に手を貸してもらおう。避難してきた北メイスの技術専門ヴィザーツに参加させよう、彼らも仕事場があれば気落ちせずにいられる」

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