第6章 クラカーナは船と運命を共にするか
キリアンは素速く手順を組みなおした。
「30分くれ。準備を整える」
「ついでと言っちゃなんだけど、8枚翅と解除コードの相性がいい感じだからさ、スピラーだけの編成でどれくらい有効か、試してくれない?」
「いきなりそれですか。次の隊に指示して下さいよ。こっちは今の退避行動で反響板の状態をチェックしなきゃならんです!」
「遊びじゃないって、オレっち、分かってるよ」
「なんなら、ガーランドのトール・スピリッツ使ったらどうです。あれは複座なんだから!」
「そうキレるなって。オレっちが悪かったよ、皆がぎりぎりのところで踏ん張ってるのは知ってるよ」
「女王代理に頼んでもらえませんか。トール・スピリッツと美味いハムを調達してくれって。士気にかかわるってね」
こうしてミナス・サレ撤退前日まで、さまざまなヴァージョンが試された。
トール・スピリッツが加勢に来て、ハムと新鮮な果物が届いたおかげだった。
予定をすべて終えた日、サージ・ウォールは塩湖をほとんど潰し、城の西10キロメートルに迫っていた。天蓋がかろうじて暴風を抑えているが、隙間から悲鳴のような音が襲ってくる。ここ数日の空は昼間でも夜明けほどの光しかなかった。
食堂に集まった全員に、ヒロは告げた。
「すぐに腹ごしらえして、今日のうちに黄鉄回廊を抜けよう。ここ数日のデータだが、解除コードを局所的に使えば使うほど、サージが周りからエネルギーを補充しようとスピードを上げる。予定より早くここは巻き込まれる。あと1日の猶予がなくなった。
現在、正午だ。午後3時に段取りどおりに出発開始。各機、信号と照明は最大で行ってくれ。薄暗いし、砂塵もひどい。発電設備もそろそろ限界だ。
ミナス・サレ・ヴィザーツの皆さん、ガーランドは皆さんを歓迎します。これからも実証実験は続きます。新しいミナス・サレ領国を営むためにも、力を尽くしませんか。短い間だったけど、オレっちはここが好きになったよ」
一斉に携行食の封を切る音がした。キリアンの隣のバジラの顔色は冴えなかった。
「お前たちは大手を振って帰れ。有効なデータは取れたし、機材も全部送った。俺はしんがりで、ミナス・サレの防御壁コードの強度を撮影しなきゃならないんだ」
「怖いか」
「諜報活動は基本的に相手が人だから平気だ。ウォールはそうじゃないからな」
カレナードはさっさと食べ終わった。
「トールはもう出発します。私はクラカーナ殿を呼びに行くから、2人も手順どおりに」
バジラは情報部員の顔に戻った。
「よし! 飛行艇に行くぞ」
キリアンはカレナードについて走った。
「キリアン、どうして」
「俺がいると役に立つと思ってな」
「スピラー隊は大丈夫?」
「あいつら、俺がいなくても逃げ足は速い。クラカーナ殿はどこだ」
「今朝から本城の執務室に行ってる。ジュノアさまは先ほどお子さまと飛行艇に行った」
カレナードは急に立ち止まった。
「キリアン、君のスピラーを執務室前の広場に寄せてくれ。領国主はここで死ぬつもりかもしれない」
「くそっ、手間のかかる爺さまだな!」
キリアンは一目散に自分の機体へと走った。カレナードはエレベーターを使わなかった。いつ電源が失われるか、分からない。自衛が使う自転車に飛び乗り、劇場から続くヘアピンカーブの城内スロープを登って行った。
執務室では午後2時の時報が鳴っていた。
「クラカーナ殿! 脱出スケジュールの繰上げです! 黄鉄回廊を抜けます、今すぐ広場に!」
領国主は喪服を着て、箱を抱えていた。
「来たか、女王代理。これをジュノアに渡してくれ。領国主が持つべき印璽だ。お前はミセンキッタのそれを見たことがあるだろう」
「では、それを持って一緒に広場に出ましょう。すぐにスピラーが迎えに来ます」
彼は動かなかった。箱を机に置き「それを頼む」とだけ言った。
「娘と孫を遺して死ぬおつもりですね」
「儂は領国主として大きな間違いを犯した。グウィネスを止めねばならんかった、多くの若者が命を落とすのを止めねばならんかった、ミナス・サレが滅ぶのを止めねばならんかった。
だが、どれも出来なかった。儂は愚かだった。愚かさの罪を償わねばならん。次の領国主はジュノア・アガンである。箱には任命の書類も入っておる。さあ、早くそれを持って行け」
カレナードはためらわなかった。
「分かりました。カレナード・レブラント、印璽をお預かりいたします」
言うや、彼女は机を飛び越え、クラカーナの喉を抑えた。シドが処方した軽い麻酔薬を嗅がせると、老人は気を失った。
「急がないと! この薬は10分しか効かない!」




