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収納せしモノ

神無き世界。

それは、ジークの思い描いていた世界とは違っていた。

魔法もなければ、魔物もない。

どこまでも高くそびえたつ灰色の塔。人々は見慣れない装備をし、灰色の道を闊歩する。


空を飛ぶは、ドラゴンではなく得体の知らない造形物。翼を広げ、轟音という名の鳴き声を響かせ、空を進む。

緑は少なく、皆が皆、手に長方形のナニカを持ち、それを見つめ続ける。


その光景を見つめながら、ジークは夕焼けに染まった道を進む。


揺れる、黒のローブ。

そして、その足元から滲むは闇。

【無限収納】という名の力の漆黒。


「よぉ。にいちゃん」


「こんな時間にそんな格好でなにやってんだ?」


「一人コスプレ大会かなにかか?」


響くジークを小馬鹿にしたような声。

それに足を止め、ジークは後ろを仰ぎ見た。


数は三人。

髪色は金髪。

手に金属の棒を持ち、三人はその顔に嘲笑を浮かべている。


それに、ジークは呟く。


「同じ顔」


「あいつらと同じ顔をしている」


ジークがパーティーから追放され、殴打の末に路上に放置された時。自分を見下ろし笑っていた、者たち。

それと同じ顔を、彼等はしていた。


「はぁ? 何言ってんだ、てめぇ」


「いいから金を寄越せよ」


「そんなくだらねぇコスプレをしやがって。痛い目にあいたくなけりゃ」


刹那。


ジークは力を行使しようとした。

彼等の声。それを聞く前に、容赦なく。


「収納する」


「オマエたちの」


だが、そこに。


「ねぇ、おかあさん」


「きょう、わたしね。みんなにおはなのかんむり。つくってあげたんだ」


聞き覚えのある声。

それがジークの耳に聞こえてくる。


"「ジーク」"


"「ソフィはずっといっしょだよ」"


"「ずっと。ずっと」"


"「いっしょだよ」"


別れの時の記憶。

その記憶がジークの中に蘇った。


「ソフィ」


名を呟き、ジークは声の響いたほうへと視線を向ける。

そのジークに、ガラの悪い男たちは殴り掛かろうとした。


「てめぇッ、無視すんなよ!!」


怒声。

それを響かせ、ジークの元に駆け寄る三人。

そして金属バットを振り上げ、ジークに振り下ろそうとーー


「収納する」


視線さえ向けず、ジークは呟く。

倣い、彼等の手から金属バットが消失。


同時にジークは彼等を見つめる。

光無き闇色の双眸をもって、ただ静かに。


それに、男たちは感じる。


自分たちの命。

それが目の前の存在に握られているという実感。

それを、鮮明に。


後退り、小刻みにその身を震わせる男たち。


「ば、化け物」


「こここ。殺される」


「たすけ。助けて」


そう声をあげ、彼等は我先にとその場から忌避していく。

沈む船から逃げ出す鼠のように。まさしく、本能のままに。


その光景。

それを母子は見つめ、立ち止まる。

そして、恐ることなく。

ただじっと。二人はジークを見つめる。


視線が合う三人。


ランドセルを背負った黒髪の少女。

そして、その手を握る薄い茶髪の女性。

その姿に、ジークは呟く。


「ソフィ」


「母さん」


手を伸ばそうとする、ジーク。

だが、ジークをそれを堪える。


ソファが痛みを感じる世界線。

それを収納した、自分。

ここでまた繋がりを持ってしまえば、また、ソフィは痛みを。


だが、そんなジークの思いを二人の声が遮った。


「じーく」


幼い涙。


「じーく。じーく」


ジークの姿。

それに、ソフィはぽろぽろと涙をこぼす。

蘇った記憶に。心を温かくして。

そして、女性また自身の目元から涙を拭ったのであった。


〜〜〜


玲於奈レオナ


「なに? ルーシア」


「知ってる? 昨日、公園であった事件」


「知らないわよ。なにかあったの?」


「なんでも。漆黒のローブを纏った男が現れて、収納? とかなんとか呟いて、金属バットを消したって話」


「収納? なにそれ?」


「こっちが知りたいわ」


レディーススーツ。

それを着こなし、二人は隣同士のオフィスデスクでコーヒーを啜り微笑む。

しかしその顔には、浮かんでいた。


ジーク。

その存在に対する、様々な感情。

それがはっきりと。


〜〜〜


本日、未明。

日本に向け発射されたと見られる核弾頭数十発が、日本上空で消失。

政府関係者は、その調査にあたると同時に、緊急事態宣言を発令。

米政府と共に事態の収拾を図ると表明。

なお、日本に向け核弾頭を発射したと思われる国はーー


〜〜〜


神無き世界。

そこで、ジークは夜空を見つめる。


日本に向け放たれた核弾頭。

それを瞬きひとつで収納し、その場でジークは風に髪を揺らす。


そして、呟いた。


「神なきこの世界」


「その世界を俺は」


「神に代わりオレが統治する」


無限収納。

その圧倒的な力で、この世界を統治する。

ジークはそう決意したのであった。


もはやジークは、人では無いなにか。神でもないナニカ。


神無き世界。


その世界を自らの力をもって、完全なる統治を成し遂げようとする姿。


その姿はまさしくーー


無限収納。

あらゆるモノを収納せしモノ。


そのモノだった。


〜fin〜


何回か更新が滞りましたが、なんとか完結させることができました。

復讐モノが好きなので、また次もこんな作風の小説を書いてみたいなと思っています。

その時はまた、どうぞよろしくお願いします。





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