神に背きしモノ③
無限収納。響いたその力の名。
それに、神々は認識する。
ジークが、自分たちの敵だということ。
そして、これまでの【神に背きしモノ】と比べ明らかな異端だということ。それを、明確に。
「ジーク」
「オマエを我々の敵だと認識する」
「神の敵だと。断定するわ」
ジークを見定め、彼等は力を行使する。
因果律の操作。
現実改変。
存在そのものの否定。
そんな、およそ人の境地では到達しえない神の敵意の行使。
だが、ジークはその全てを【収納】する。
「収納する」
その短き意思の表明で。
ジークの内。
その中に広がる無限の闇。
そこに、彼等の力は収納されていく。
有無を言わせず、たったひとつも例外もなく。
「なぜ、通じぬ」
「何故。我らの力が人に通じぬ」
「あり得えてはならないわ。人如きに……こんな。こんな、馬鹿げたこと」
響く声に宿るは、焦燥。
そしてそれは、神々が今まで抱いたことのない感情だった。
そんな神々に、ジークはもはや言葉をかけることはしない。
静かに。
神々に対し、手のひらをかざすジーク。
その瞳に宿るは、【無限収納】の力の胎動。暗く冷たい闇の瞬き。
それに、なおも神々はジークに力を行使し続けようとした。
たった一人の人間。
永遠と呼ばれる時の中。自分たちが、矮小と罵った【人】という存在。
その存在に、【神】が畏れを抱く等、あってはならない。
「矮小なる人の分際で」
轟く、神の声。
「畏れを抱くべきは、我らではなくキサマ。その頭を下げ、我らを崇めるのだ」
「さすれば、此度の不敬」
「不問にしてやってもよいぞ」
どこまでも不遜で。
どこまでも、威圧的。
「オマエらも同じだ」
「勇者共と同じだ」
神々の姿。
それにジークは、重ねる。
勇者とその仲間。そして、今まで自分が収納してきた数多の人々の姿。
それを、己の脳内で重ね合わせる。
「同じ?」
「我らと人を同列に」
語るでない。
響かんとした、そんな神々の言葉。
それをジークは、【無限収納】の力をもって遮った。
「収納する。神という存在を」
瞬間。
神々は、闇に包まれそこから消失。
ジークの中。
無限に広がる闇の中に収納されてしまう。
呼応し、空間が揺らぐ。
それは、神々が消失してしまったことによる神の空間の消滅と、神の掌握していた【全ての世界】の消滅を意味していた。
その中で、ジークは呟く。
「収納する」
「この空間から元の世界への次元を」
漆黒の闇。
それに包まれ、消滅に向かうべき空間から己を収納するジーク。
そして、ジークは次元を収納し、元の世界へと戻っていったのであった。
神に背きしモノ。ではなく、ジークという名の一人の存在として。
【無限収納】の力。
それを持つ、一人の人間という存在として。元の世界へと。
〜〜〜
神が存在を無くした世界。
そこに戻り、ジークは目を開けた。
視界に広がる、景色。
それにジークは、途方もない違和感を覚える。
夕焼けに染まった、色のついた石畳。
そして、水が噴き出す奇怪な形をした造形物。
光の灯る長細い柱。
同時に吹き抜けるは、風。
その中で、ジークは声を聞く。
「ねぇ。この世界に神様って居ると思う?」
「うーん。わかんない」
「実際に居たらさ。どんなお願い事する?」
「えーと、ね。お金持ちになりたいってお願いする」
「ははは。この【現代の世界】でお金持ちになりたいなら、神様になんか頼らなくてもさ」
ジークの側。
そこを会話を交わしながら通り過ぎる、二人の見慣れない装備をした女子。
その姿を仰ぎ見、ジークは呟く。
「神の。存在しない世界」
己の胸中。
そこでそう呟いたのであった。