神に背きしモノ②
響いたその言葉。
そしてその余韻が消えぬうちに、声の主はそこに現れた。
神に背きしモノ。
その力は、全てを無にする。
そうであるなら、距離を無にすることもまた可能となる。
神々の住う天上。その地を、漆黒が侵食する。
じわり。じわりと。
まるで、乾いた砂に水が染み渡るようにして。
「ジーク」
厳かな声。
それが響く。
「矮小なる人の子よ。誰の許しをもってこの他にその姿を現した」
「不敬者ね。さっさと消えてちょうだい」
震える、空間。
およそ人が聞くことさえも許されない神の声。
故に、その声は全てのモノを可能とする。
神の言葉。
人智の及ばぬ神秘の領域。
本来なら、ジークは消失せねばならない。
神がそう言ったのだから。
しかしジークは、消えない。
ただ静かに神々を見つめ、声を発する。
「ほざけ、ゴミ」
「消えるのはてめぇらだ」
手のひらをかざす、ジーク。
「くだらねぇ記憶。それが流れ込んだせいで、胸糞悪りぃんだよ。他の誰かの為じゃねぇ。他の誰かの思いじゃねぇ。これは俺の。俺だけの復讐だ」
吐き捨て、ジークは力を行使する。
神々に対し、躊躇いなく。
「消え失せろ」
紡がれる、ジークの言葉。
だが、その力は神々には通じない。
「人の子よ。その程度の力でなにができる」
「どれ。少し遊んでやろう」
「ふふふ」
嘲笑し、ジークを弄ばんとする神々。
それをジークもまた、嗤う。
そして、呟いた。
「どっちが遊んでやっているのか」
「わからせてやる」
ジークの身。
そこから滲む闇。
「やっぱり俺には収納のほうがしっくりくる」
「神に背きしモノより」
「こっちのほうがな」
だが、神々はなおも余裕を崩さない。
「収納の力」
「他愛もない。その力を与えしは、我らだということを忘れたか? その力は我らには通用せぬ」
「やっぱり。人間って、愚かなのね」
収納の力。
それを収納し、ジークは【神に背きしモノ】となった。
しかし、ジークにとってそれは自らを更に上の次元に押し上げる行為。
収納の力を収納。
それは即ちーー
「無限収納」
「収納できないモノを収納する」
己の力。
それを上に昇華する餌に過ぎない。
呼応し、ジークを包む深淵の闇。
そして響くは声。
「てめぇらの言葉。それで何故、俺が消えなかったのか? わかるか?」
「無論。貴様が、神に背きしモノになったからではないか」
刹那。
「収納する」
「その傲慢を」
行使される力。
倣い。決して収納されることのない天上の神の一柱。それが、その場から消失してしまう。
「これが答えだ」
「無限収納」
「その力をもって。てめぇらの言葉の力を収納してやったからだ」