神に背きしモノ①
ジークの脳内。
そこに湧き上がる、数多の記憶の奔流。
それは、ジークと同じ【神に背きしモノ】たちの記憶の調べ。
"「役立たず」"
"「ゴミクズ」"
"「さっさと死ね」"
"「てめぇに戻る場所はねぇ」"
"「なぜかって? そりゃ、決まってんだろ」"
"「みんな。全員。死んじまったからな」"
響く嘲笑と拍手。
渦巻くは、喝采と狂気。
轟くは彼等の慟哭。
流れるは、血と涙。
罵詈雑言。終わりなき暴力。
燃える故郷。陵辱され、火にかけられ、けらけらと嗤いながらーー彼等の大切な人は殺されていった。
"「俺は」"
"「わたしは」"
この世界にーー復讐を。
大切なモノを奪ったこのセカイに、慈悲なき復讐を。
魔女と断罪された赤髪の女騎士は、血の繋がりを持つ者全てを八つ裂きにされた。
禁忌に触れたと虚言を呈された魔導士は、工房諸共弟子全てを火刑にかけられた。
次なる闇と嘲笑された英雄は、目の前で仲間全ての首を刎ねられた。
またある者はーー
………
……
…
慟哭し、血の涙を流し続け、彼等は復讐の中で【神に背きしモノ】へと至ろうとした。
神を恨み。世界を恨み。
大切なモノたちの為に、彼等は復讐を成し遂げようとした。
だがーー
「全て」
「消された」
記憶の調べ。
それを遮り、ジークは見つめる。
なにも無き中空。それをじっと。
「奴等に消された」
響くジークの声、
そこに宿るは、姿見えぬモノたちに対する無機質な怒り。
そしてジークは、手のひらをかざす。
「奴等をコロす」
無機質に。
己の胸中でそう呟きながら。
〜〜〜
「神に背きしモノ」
「やはり。あの程度の力で、蓋をすることは叶わなかったか。少しばかり、我らの力を貸してやった者たちも居たが……力不足だったようだ」
「これで、またひとつ。矮小なる人の世界を消さねばならなくなった」
神に背きしモノ。
その存在を、彼等は嗤う。
いつものように。優雅に笑った。
遥か天上。
そこに住まうモノたち。
それを人々は、【神】と呼ぶ。
彼等の眼前。
純白の台座に置かれるは、全ての世界を表すいくつもの球体の水晶玉。
そして、その中のひとつ。そこに、【神に背きしモノ】が現れた世界をうつす闇色の水晶玉が鎮座していた。
「ジーク」
「よもや。我等が与えし力で抑えつけることができぬとはな。しかし。これもまた、はじめてのことではない」
「今まで幾つの世界を消してやったかしら? 神に背きしモノが現れた世界をね。ふふふ。一万を超えたあたりから……数えるのをやめましたけど」
笑い合う、神々。
彼等は、消してきた。
幾多の世界を。幾多の生命を。
神に背きしモノ。
その存在が現れた世界。それをまるで、ゴミのように踏み潰して。
そして、此度もまた踏み潰そうとした。
【神に背きしモノ】が現れた世界。それを表す、漆黒の水晶玉を。
余裕に満ちた笑みを、その顔に浮かべながら。
しかし、それをーー
「コロす」
そんな、無機質な声が遮った。
〜〜〜