カレン②
倒れ伏した、カレン。
その身より、ジークは記憶を収納する。
感じた違和感。その意味を知る為に。
ジークは瞼を閉じる。
そして、カレンの記憶を見た。
〜〜〜
"「カレン様。この儀式に必要なモノ。それは」"
"「文献によれば不明な点が多いのよね。でも、多分だけれど。この世界に生きるモノの命かしら? だって、神に背きしモノよ? 神が創ったとされる生命なんて必要としないと思わない?」"
"「しかし……勇者が魔王を倒し、平和になったこの世界。そのような世界で、幾多の命を搾取せしめるモノなど」"
"「いつか、現れる。勇者と魔王がはじめて現れたその時みたいに。光と闇さえも超越したナニか。それが、きっと」"
揺れる蝋燭の火。
それに身を照らし、カレンは嗤う。
"「その為に、人形が必要なの。神に背きしモノが統治した世界。その世界。そこに存在できるのは……人ならざる人形だけだもの。だって、そうでしょ? 人形って、神じゃなくて人が創ったモノだもの」"
"「カレン様。その先に待つモノはーー」"
"「それはね……ふふふ」"
"「ーーなの」"
〜〜〜
ジークの脳内。
そこにうつしだされる、カレンの記憶。
それに、ジークは瞼を開けた。
カレンの望むモノ。
それを知り、しかしジークの表情は変わることはない。カレンの望むモノ。それに対し、興味を持つことなどない。
ただひとつ。
その存在を除いては。
「神に背きしモノ」
ジークの口。
そこから紡がれる、その言葉。
同時に、ジークは思い出す。
自らの身。そこに、【万物収納】の力が目覚めし時の記憶。
それを、鮮明に。
「ゴミ」と嘲笑され、袋叩きにされ。
信じていた存在に裏切られ。
そして、へらへらと故郷を滅ぼした。と告げられて。
そして、涙で霞む夜空を見つめーー
その時。
己の内に芽生えしは、形容しがたき胎動。
この世界全てを【無】にしてしまいたい。そんな、暗く深い闇の胎動だった。
しかし、あの時。
【万物収納】という名の力ではなく、他のナニカが己の内に芽生えようとしていた。
だが、そのナニカに蓋をするように【万物収納】という名の力が現れた。
ずきり。
と痛む、頭。
それを片手で抑え、ジークは瞳に真紅を灯す。
そして、静かに呟く。
「収納する」
「この力を」
染み渡る、ジークの呟き。
その余韻。それが、消えぬ内に世界が揺れる。
歪む石畳に描かれた巨大な六芒星の刻印。
そして、闇に染まりゆく六芒星。
その様。それを見つめ、ジークは声を紡ぐ。
「神に背きしモノ」
「その名は」
呼応し、世界の震えが止まる。
それはまるでジークの言葉を待つかのよう。
果たして、ジークは声を響かせる。
神に背きしモノの名。
それを、はっきりと。
「ジーク」
そう、迷うことなく自らの名を響かせたのであった。