カレン①
ジークの眼前。
そこにランスロットは崩れ落ちる。
瓦解する砂城。それを思わせるように、実に呆気なく。
その様を見届け、ジークは呟いた。
「くだらねぇ、鬱陶しい。勝手に穢れ穢れほざいてろ。てめぇの人生だろ? それから逃げやがった人形風情が」
忌々しく。己の胸中で。
そして、ランスロットを躊躇いなく足で踏みつけーー
「くそっ。あの時、殺っておけばよかったな。あの時殺っておけば……こんなにイラつくこともなかったってのに」
ジークは吐き捨てる。
自分の選択。それが誤っていたことに対する怒り。それをその声に込めて。
呼応し、空が陰る。
ジークの思い。それに呼応するようにして。
空を見上げる、ジーク。
風に揺れる、髪。
瞳に蠢く、闇。
「人が居る限り世界は汚れ続ける? なら、穢し続けてやろうじゃねぇか。そうすりゃ、目立たなくなっちまうだろ? この世界が汚れきっちまったらな」
三度。ジークは吐き捨て、鼻で笑う。
己が今まで見た穢れ。
そして、それを覆い隠すように己がやってきた穢れ。
それを今更、後悔すること等ない。
響いたジークの意思。
それに、更に空が陰る。
倣い、ジークはその身を翻す。
ここにはもう用は無い。そんな表情を浮かべ、意思を表明しながら。
「収納する」
「この地を」
力を行使し、王都を消失させたジーク。
そこに降り注ぐは、雨。
冷たく、重い雨。
その雨に身を濡らし。
その闇に心を濁らせ。
その穢れに己の身を染め上げながら、ジークは迷いなく、力を使う。
「収納する」
「魔聖との距離を」
漆黒に包まれる、ジーク。
そしてその身は、カレンの元へと誘われていったのであった。
〜〜〜
石畳に描かれた巨大な六芒星。
その中央に立ち、カレンは瞼を閉じる。
"「世界は汚れ続ける」"
"「その為にわたしは、考えているの」"
"「なにをって? それはね、この世界の命あるモノ全てをーー」"
「人形にする」
かつて己の発した言葉。
それを反芻し、カレンは微笑む。
その笑みに悪意はなく、あるのは混じり気のない純粋な思いのみ。
しかし、今となってはそれも叶わぬ夢。
瞼を開けた、視線の先。
そこに佇む、ジーク。
その姿に、カレンは声を投げかける。
どこか楽しげに。どこか、悲しげに。
「ジーク」
「この世界を貴方はどう思っているの?」
既に。従者は全てジークの力により亡骸と化し、カレンを遮るモノはなにも無い。
「貴方のその力。それがあれば」
「言いたいことはそれだけか?」
カレンの言葉。
ジークは、それに手のひらをかざす。
「魔聖。てめぇに聞きたいことはてめぇを死体にした後でも充分なんだよ」
「へぇ。そうなんだ」
微笑む、カレン。
「収納する」
「てめぇの命を」
間髪入れず、ジークは意思を表明。
しかし、その間際。
ジークは妙な感覚を覚えてしまう。
カレンが命を散らすその瞬間、なぜかカレンが微笑んでいたこと。
それに、喉に小骨が刺さったかのような妙な違和感をジークは感じたのであった。