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行く末④

漆黒を帯びたジークの拳。

それを顔に受け、レオンの全身がだらりと垂れ下がる。生という名の系。それを切られた人形のように。


同時に滴る、赤黒い血。

そしてそれが溜まりとなり、ジークの足下を濡らす。


それにジークは一瞥もくれない。


「収納する」


淡々と響く、ジークの声。

呼応し、漆黒に包まれレオンの身が消失。

残るは、己の拳より血を滴らせるジークただ一人となる。


そこに響く声。


「に。にげない」


「わたしは。ぜったいに」


「にげない。にげ、ない」


レオンの死。

それを目の当たりにし、コルネは譫言のように声をこぼす。身は震え、その目は虚ろ。

表情に生気はない。あるのは、目の前の現実に対する忌避の感情のみ。


「あ、あなたはわたしが」


「わたしがころ、す」


剣を構える、コルネ。

しかしそこに、先ほどまでの敵意はない。


「れ。レオンの仇」


「わた。わたしが」


声をこぼし、二歩。三歩。と、コルネは後ずさっていく。

その頬に涙をつたわせ、呼吸を荒くしながら。


光無き瞳。

それをもって、コルネを見据えーー


「収納する」


「その剣を」


ジークは意思を響かせた。


コルネの手。

そこから消える剣。

それでもなお、コルネは声を響かせ続ける。


「ころす。コロす。ワタしが、あなたを」


壊れた人形。ジークはそんな思いを抱く。

視線の先。そこで、感情のこもらない譫言を繰り返すコルネに対しーー壊れた人形と。


手のひらをかざす、ジーク。


「収納する」


「あの女の」


命を。


行使されようとした、ジークの力。

しかし、それを聞き覚えのある声が遮った。


「人形は人形」


レオンコルネに。なろうと思わぬことだ」


刹那。

ジークは見た。


コルネの身。

それが、真っ二つに遮断される様を。


飛び散る鮮血。

ぐしゃりと崩れ落ちる、コルネだったモノ。

広がる血溜まり。そして、コルネの視線がジークに向く。

虚な眼差し。そして、こぼれおちる一筋の涙。


だが、ジークの表情は変わらない。

ただ一点に。ジークは声の主を見据えるのみ。


ゆらりと。

空間が歪む。


果たして、その剣聖モノは姿を現す。

遮断の力。空間を遮断して。


肉塊と化した、コルネ。

その血溜まりの中。そこに、顔色ひとつ変えることなく。


姿。形。

それは、ランスロットと同じ。

だが、明らかにあの時のランスロットとは違う。


「それが本性か」


「それが、オマエか」


響く、ジークの無機質な声。

それにランスロットは答えた。


コルネの頭。

それを冷たき眼差しで見下ろし、踏みつけながらーー


「俺は俺だ」


「今も昔も。そしてこれからも」


淡々と。

眉根ひとつ動かさずに。


そして視線をジークに向け、問いかけた。


「ジーク。おまえは思わぬか?」


「人という存在。それがある限り、この世は汚れ続けると」


「……」


「なればこそ。人になろうと思わぬ人形。それをもって、この世界をーー」


瞬間。

ジークは、言い放つ。


「収納する」


剣聖オマエの命を」


行使される、ジークの力。

しかし、ランスロットはそこに佇むのみ。


「俺に命など無い。人形オレに命など、存在せぬ」


蒼く輝く剣を抜く、ランスロット。


「穢れある人の身で、あのような崇高なことを言えるモノか。人の身で。あのような、穢れなき振る舞いをできるモノか」


自らの行動。そして言動。

それに対し、ランスロットは吐き捨てる。


そして、ジークへと剣を向けた、ランスロット。


そのランスロットに、ジークは問う。


「魔聖か?」


「あの女のーー仕業か?」


「いつから……お前らは、人形ゴミだった?」


ランスロットは答えない。

無言をもって、応えるのみ。

しかし、ジークにはそれで充分だった。


「こい、人形。オマエから聞くことは、もうなにもねぇからな」


忌々しく、ジークは声を紡ぐ。

そして、力を行使する。


「収納する」


「人形という概念を」


瞬間。

ランスロットは、人へと戻りーー


「収納する。距離を」


「収納する。てめぇの命を」


という、眼前に現れたジークの二言により、その命を終えたのであった。

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