収納するモノ④
「ここに、ジークが?」
「は、はい」
「誰も居ないじゃない」
拓けた草原。
そこに佇み、悪態をつくココネ。
小柄な体躯に漆黒のローブ。
大きなとんがり帽子に、幼い顔つき。
その見た目からは、勇者パーティーの魔法使いには到底見えない。
しかし、その実力は確か。
「ディルク」
「はい、ココネ様」
「あなた。嘘をついたの?」
「い、いえ。そういうわけでは」
「わたし、嘘つきって嫌いなのよねー。もし、後10数えてジークが現れなかったから……あなたを代わりに殺す」
瞳孔。
それを開き、隣に立つディルクを見上げるココネ。
その眼差しを受け、ディルクは生きた心地がしない。
「カウントをはじめまーす」
「……っ」
「はい、いーち」
「にー」
「さーん」
「よーん」
瞬間。
闇を帯びた風。
それが二人の身を吹き抜ける。
その、闇の気配。
それにココネの表情がにこやかになる。
「よかったねー、ディルク。これであなたは死なずに済みましたー」
ぱちぱち。
と拍手をする、ココネ。
そして同時に、ココネは見た。
「おー。いた、いた。あんなところに負け組さんが」
視線の先。
そこからこちらに向け歩み寄ってくるジーク。
その姿を視認し、ココネは笑う。
「あのゴミ。いっちょ前に闇なんて纏いやがって。舐めてるなー、舐め腐ってんなー」
顔は笑っている。
しかしジークを見据えるココネの目は一切笑ってはいない。
あるのはジークに対する嫌悪と、殺意。
「ゴミは焼却処分。瞬きの時間も与えない」
吐き捨て、手のひらをかざすココネ。
慌て、ディルクはその場から離れる。
舞う、真紅の魔力。
つりあがる、ココネのちいさな唇。
「ゴミ。死ね」
汚い言葉。
それと共に撃ち放たれるは、巨大な火球。
その大きさ。それは、山をひとつ飲む込む程の大きさ。
吹き荒れる、火の粉を纏った風。
ジークに向け迫る、巨大な火球。
それを見据え、ココネは笑う。
「ぎゃはははッ、死ね!! 死んじまえ!! ゴミ!! 負け組!!」
歪み切った人間の声。
それが響き、ジークもまたゆっくりと手のひらをかざす。
そして、呟いた。
「収納する。あの巨大な火球とお前の魔力を」
呼応し、闇に包まれるはココネの火球。
そして消える、火球とココネの魔力。
【収納物】
ココネの火球×1
ココネの魔力×9999999
「は? えっ?」
目を点にし、笑顔が消えるココネ。
追い討ちをかけるように、ジークはココネの魔力を取り出し使う。
「返すぞ、ココネ」
吐き捨て、ジークは撃ち放つ。
ココネが放った火球と同じ大きさの火球。それを容赦なく、ココネに向けて。