行く末③
蹂躙の音。
それが消え、ジークの周囲は燃え盛る炎と吹き抜ける風の音だけとなる。
ジークを包む、火の粉まじりの熱風。
その中に、ジークは感じた。
己の背につき刺さる、純然たる敵意と殺意。
それを鮮明に。
そして同時に響く二つの声。
「剣聖様の為に」
「俺たちは、あんたを殺す」
呼応し、二人は剣を抜く。
二人の名は、コルネとレオン。
白と黒のローブを纏い、二人は銀と黒の髪を熱風に揺らす。
その瞳に宿るは、決意。そして、ランスロットに対する忠誠だった。
ジークの表情は、変わらない。
これまでジークは、幾多もの暗い感情にその身を晒してきた。
だからこそ。今更、殺意や敵意を向けられたところで、ジークはなにも感じない。
ただその瞳に闇を濁らせーー
ゆっくりとその身体を反転させるのみ。
ジークの周囲。
そこに蠢く闇。
それは、まるでコルネとレオンを餌と見なす捕食者のごとき意思を宿しているかのよう。
小刻みに身を震わせ、一歩、コルネは後ずさる。
その心に滲むは、畏怖。
ちらりと、レオンはコルネを一瞥。
そして声を発した。
「コルネ」
「はい」
「逃げたきゃ逃げろ」
「いえ。わたしは逃げません」
「そうか」
コルネの意思。
それに前を向いたまま、レオンは頷く。
「思えば。あんたとは、長い付き合いになったな」
「えぇ」
「金がねぇ……そんな理由で俺たち。剣聖様の宮殿の前に置き去りにされててさ。あん時。俺たち、何歳だったんだ?」
「覚えていません」
〜〜〜
"「名をなんと言う」"
"「こ、コルネ」"
"「腹は空いてるか?」"
薄汚れた捨て子。
そんなわたしを、あのお方はーー
優しく。温かな手で撫でてくれた。
強くなれ。
そう言って剣を握らさせてくれ、ここまで大きくしてくれた。
〜〜〜
一筋の涙。
それがコルネの頬をつたう。
「逃げない。絶対に」
コルネの身体の震えが、止まる。
「剣聖様の為なら。わたしは」
「……」
思いのこもった、コルネの言葉。
それに、レオンも小さく頷く。
同じ境遇。同じ思い。
コルネとレオンは、ランスロットに色々なことを教わり、そしてここまで来た。
二人の身。
それを包む、白銀のオーラ。
構えられた二つの剣。
そこに宿る、ランスロットより継がれた力の輝き。
「いくぞ、コルネ」
「はい」
頷き合い、二人は駆ける。
姿勢を低くし、ジークという存在に向け、迷いを無くして。
こちらに迫る、レオンとコルネ。
覚悟を決めし、二人の剣聖の従者。
それを見定め、ジークは手のひらをかざす。
そして、力を行使。
「収納する」
だが、その刹那。
二人の姿がジークの視界から消える。
神速。
その技を行使して。
僅かに生じる、ジークの隙。
そして、二人はジークの死角より姿を現す。
そして、風より速く。二人はジークに向け剣を突き立てようとした。
だが、その程度を捌く等、ジークには、赤子の手を捻る程に容易いこと。
視線すら向けず、
「収納する」
「俺の死角を」
意思を表明し、ジークは軽く身を逸らす。
結果、二人の攻撃は空を切る。
しかし、なおも二人の殺意は衰えず。
三度、ジークに向け剣を向けようとした。
ジークに向き直り、剣を構える二人。
だが、ジークは次の攻撃は許さない。
「収納する」
「お前との距離を」
呟かれ、ジークはレオンの眼前に現れる。
そしてその胸ぐらを掴み、
無機質に。容赦なく。
その顔に拳を叩き込んだのであった。