行く末①
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拓けた草原。
周囲を森に囲まれ、澄み切った空気が充満するその場所。
そこに、ランスロットは佇んでいた。
白い月の光。
それに、その身を照らしながら。
「剣聖様。やはり、あのモノを討つのですか?」
後ろに控える、コルネ。
その問いに、ランスロットは静かに頷く。
コルネに背を向け、吹き抜ける夜風にその髪を揺らしながら。
「ですが、剣聖様」
響かんとする、コルネの思い。
しかしそれを遮る、ランスロット。
「わかっている。人の身であるこの俺に勝ち目などないことを」
「……っ」
押し黙る、コルネ。
「だが、いずれ誰かがやらねばならぬ。たとえ死ぬとわかっていようともな」
響く、ランスロットの声。
それに、コルネは思いを吐き出していく。
ぽつり。ぽつりと。
「なぜ、剣聖様が。なぜ、ランスロット様が。此度の世界の混沌。その代償を負わなければならないのですか? ジーク。あのモノを復讐に駆り立てたのはーー勇者ではないのですか?」
淡々と。
しかし、思いのこもったコルネの言葉。
それにランスロットは応える。
「コルネ」
名を呼び、ランスロットは後ろを仰ぎ見た。
そして、更に続けた。
「勇者無き今。あのモノを闇と断罪できる者。それは誰が居る?」
「魔王無き今。あのモノを光と断罪できる者。それは誰が居る?」
俯き。
「ですが。それでも、それでも。わたしは、剣聖様に生きて。生きていてほしい」
唇を噛み締め、コルネは身を震わせる。
それにランスロットは答えない。
ただ静かに前に向き直り、その瞳に蒼の光を灯すのみ。
そしてその光景を、レオンもまた木に背を預け、見届けたのであった。
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「カレン様。儀式の準備。整いました」
「ありがとう」
ローブ姿の女従者。
その声に振り返り、カレンはにこりと笑う。
しかしすぐに表情を引き締めーー
「時間がない。早速、儀式にとりかかりましょう。思いの外。あのモノは殻に閉じこもってはくれなかった」
そう声を響かせる、カレン。
「ネクロ。あの従者の一人が余計なことをしたせいでもあるのだけれど……ううん。遅かれ早かれ、こうなることはわかっていた」
「カレン様。あまりお時間がありません」
「うん。わかってる」
頷き、カレンは足早にその場から立ち去る。
従者を引き連れ、その顔に悲壮な覚悟を滲ませながら。
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全て終わりにする。
その思いを胸に、ジークはその歩を進める。
収納の力。
それを使わずに。
一歩。一歩。
その足に世界の感触を感じながら。
失うモノはない。
もう全て失ったのだから。
躊躇いなどない。
もうそんな思いを持つような存在ではないのだから。
振り返ることなどない。
そんなことをしても、無駄なのだから。
後悔。自責。苦悩。
そんなモノに縛られることなどーー
あるはずが無い。
終止符は全て、この俺が打つのだから。
そんなジークの思い。
それに呼応し、月は雲に隠される。
闇が周囲を覆う。
しかし、前へ進むジークの瞳には宿っていた。
闇色の焔。
それが煌々と揺らめいているのであった。