死者奏者③
しかし、それを微かな衝撃が遮った。
「ジーク、やめて。その人は敵じゃないの」
そんな声と共に。
ジークの身。
それを後ろから抱きしめ、禁忌【蘇生】により蘇った村人の女性はジークを止めようとする。
その女性を仰ぎ見る、ジーク。
その眼差し。そこに宿るは微かな光。
ジークが、村から旅立つその日。
笑顔で。ジークとジュリアを見送った、女性。
村ではいつも。ソフィを気にかけ、いつも優しく笑ってくれた、女性。
しかしその身は既に、【死者操系】により深く侵食されてしまっていた。
「やめて、ジーク。その人は」
「……」
ゆっくりと拳をおろす、ジーク。
その様。
それに男は数歩、後ろに下がり、自らの名を名乗る。
フードをとり、自らの生気なき顔を外気に晒すネクロ。
「俺の名は、死者奏者。少し、貴方とお話がしたい」
同時に響くネクロの無機質な声。
しかし、ジークに聞く耳などない。
「収納する」
「俺の。躊躇いを」
瞬間。
べきッ
女性の顔面。
そこに、ジークは肘を叩き込む。
同時に、女性はジークから二歩三歩と離れーー
「……っ」
顔を抑え、その場に蹲る。
それに操られし村人たちは、ジークに向け、声を張り上げた。
「ジークなにをするんだ!?」
「俺たちのことを忘れたのか!?」
「ジークッ、お願い!! わたしたちをーーッ」
ジークの瞳。
そこから光が消え、闇が蠢く。
同時に身体を反転させ、ジークは村人たちを見据える。
そして。
「消えろ」
響く、躊躇いなきジークの殺気の宿った声。
それに、村人たちはジークに向け、殺到する。
目を赤に染め、意思なき涙をその両目から滴らせながら。
だが、ジークに慈悲はない。
「収納する」
「お前たちの生を」
瞬間。
村人たちはその場に崩れ落ちる。
糸が切れた操り人形のように。
力無く、その目から赤を消失させながら。
その光景。
それに、ソフィはぽろぽろと涙をこぼす。
そして動かなくなった女性の側に歩み寄って寄り添い、ソフィは涙を漏らし続けることしかできない。
「そ、ふぃ」
最期の瞬間。
女性は、ソフィに微笑んだ。
「また。あなた、たちに」
「あえて……うれし、かった」
そして動かなくなる、女性。
泣きじゃくる、ソフィ。
響く、幼い嗚咽。
その様。
それを見届け、ネクロは声を漏らす。
「やはり貴方様は、この世界を統治べき存在。勇者も魔王も無きこの混沌。それを統治すべきは、圧倒的な力を持つ慈悲なき存在。魔聖でも剣聖でもなくーー貴方様のようなお力を持つ存在」
「魔聖のやり方。それをわたしは良きとは思いません。貴方様を世界から隔離し、このような場所に閉じ込めておく魔聖のやり方が、良きとは思いません」
「黙れ」
ネクロの口上。
それに、ジークは吐き捨てる。
そして、身を翻しーー
「死ね」
と吐き捨て、ネクロの命を容赦なく収納したのであった。