死者奏者②
しかし、その気配は答えない。
それに、ジークは応える。
ソフィの身。
それを自らから、離しーー
収納の意思。
それを表明しようとした、ジーク。
だが、それを声が遮る。
「ここを開けて、ジーク」
「ソフィもそこに居るのでしょ?」
「村のみんな。みんなジークに会いたがっているぞ」
「俺たちの為に。故郷の為に。その力を奮ってくれたのだろう?」
ジークにとって、聞き覚えのある声の数々。
そしてそれは、ソフィにとっても聞き覚えのある声の反響だった。
「ジーク。みんなの声だよ」
嬉しそうに、ソフィは閉じられた扉の前に駆け寄っていく。
「みんなも生きてたんだね。ジーク。はやくみんなに会おうよ」
扉の前。
そこに立ち止まり、振り返るソフィ。
その顔に浮かぶは、幼い笑顔。
それにしかし、ジークは首を横に振った。
そして、声を響かせる。
「ソフィ。みんなは、そこには居ない」
「いない?」
頷く、ジーク。
「で、でも。外からみんなの声が」
そこで、ソフィは頭を抑える。
小さな両手で。その瞳を赤く染めながら。
「ジーク。じーく」
「いたい。痛いよ。あたまが、イタい」
染み渡る、ソフィの苦しげな声。
そして同時にその場にうずくまり、ソフィは無機質な声を漏らす。
「ころす」
「世界に混沌をもたらすモノ」
「ジークをころす」
だが、ジークは動じない。
無機質にソフィを見つめ、力を行使した。
「収納する」
「ソフィにかけられた魔法を」
呼応し、漆黒の闇がソフィを包む。
そして、ジークは自らの内に【死者操系】という名の魔法を収納する。
途端。
ソフィの瞳が元に戻りーー
「……っ」
怯え顔を浮かべ、ソフィはジークの元へと駆け寄っていく。
そしてジークの陰に隠れ、小刻みにその身を震わせ続けることしかできなくなってしまう。
そのソフィを優しく撫で、しかしジークの意識は外へと向いていた。
「開けろ、ジーク」
「わたしたちの言うことが聞けないの?」
「なら、仕方ないわね」
「ソフィだけが。ジークにとって大切な存在じゃないでしょ?」
だが、ジークの表情は変わらない。
「黙れ」
吐き捨てる、ジーク。
「なんてことを言うの、ジーク」
「なら仕方ない」
「この薄汚い小屋もろとも。まとめて」
「コロしてやる」
声の質。
それが殺気に彩られ、火粉の混じった熱風が室内に充満していく。
それにジークは、呟いた。
ソフィを抱き抱え、
「収納する。外との距離を」
そうはっきりと呟く。
刹那。
ジークとソフィは、外へと身を置く。
吹き抜ける風。
二人は風に包まれ、そして、ジークは見た。
こちらを見つめ、ちいさく拍手をする漆黒のローブを纏った男の姿。
それを鮮明に。
ソフィをおろしーー
「収納する」
「奴との距離を」
ジークは意思を表明し、男との距離を瞬時に詰める。
そして闇を纏った拳を振り上げ、「消えろ」と吐き捨て、その拳を躊躇いなく叩き込まんとしたのであった。