死者奏者①
勇者の死。
即ち、アレンの死。
それを成し遂げ、ジークはその身を翻す。
しかしその瞳には既に光は無い。
吹き抜ける風。
それに髪を揺らしーー
「ジーク」
響く名を呼ぶ声。
ジークはそれに、瞳に光を宿す。
微かに。まるで、消え入りそうな蝋燭のように。
「ソフィ」
名を呟く、ジーク。
そしてジークは、幼き声のしたほうに意識を向ける。
視線の先。
そこにソフィは立っていた。
ジークの姿。それに安堵し、ソフィは微笑む。
そのソフィの姿に、ジークはもまた表情を和らげた。
このままで、いい。
自分はずっと、このままで。
ゆっくりとソフィの元に歩みよっていく、ジーク。
しかしそのジークにはどことなく陰が落ち、その表情もまた少しだけ、暗いものになっていた。
〜〜〜
勇者の死。
それを肌に感じ、カレンは静かに瞼を閉じる。
窓から差し込む日の光。
その中に佇み、思考を巡らせた。
勇者でも倒せなかった。
いや、それは予測できたこと。
だとすれば、もうーージークを止める術はない。
このまま。
あの中で、ジークを留めておく。
ソフィ。
あの少女がソコにいる限り、ジークはこちら側に敵意を向けることはない。
全てはこの世界の為。
勇者無き今。
それしか方法はーー。
「聞こえるか」
カレンの脳内。
そこに響く、男の声。
そしてその声にカレンは聞き覚えがあった。
「ランス、ロット?」
「少し話しがしたい。ジークの……あのモノについて」
「えぇ。いいわ」
頷き。カレンは窓に背を預け、ランスロットとの会話をはじめたのであった。
〜〜〜
復讐は終わった。
しかしなぜか、ジークの心には闇が濁ったままだった。
全員。死んだ。
この手で殺した。
そして、ソフィもここに居る。
なのに、なぜ。
「ジーク」
「どうした、ソフィ」
「ううん。なんでもないよ」
ジークを見上げ、ソフィは笑顔になる。
「今日はね。ジークといっしょに」
「……」
ソフィを見つめる、ジークの瞳。
そこに光が無い。
「ジーク?」
「ん? どうした?」
光が戻り、微笑むジーク。
そのジークに、ソフィはぎゅっとジークのローブの裾を握りしめる。
ちいさな手で。その身を微かに震わせながら。
「ソフィ?」
「ほんもの」
「本物?」
「ソフィはほんもののソフィ」
「当たり前だろ。ソフィはソフィだ」
片膝をつき、ジークは震えるソフィを優しく抱きしめる。
「変なこと言わないでくれ。もう、俺は」
脳裏によぎる、ソフィの亡骸。
ロッカスの屋敷。
そこで見た、変わり果てたソフィの亡骸の写真。
ずきりと痛む、ジークの頭。
だが、ジークはその痛みと記憶を収納し、優しくソフィを抱きしめ続ける。
ソフィもまた、ジークに縋りーー
しかし。
「誰だ?」
外に気配を感じ、ジークは声を響かせたのであった。