アレンの死③
身をのけぞらせる、アレン。
そしてその顔に宿るは、焦燥。
収納できねぇ、だと?
ゴミの、攻撃が。
アレンの胸ぐら。
それを引き寄せ、ジークは再び拳を固める。
そのジークの瞳の殺意。それに揺らぎはない。
「収納してみろよ、アレン」
「俺の力。それを使ってやってみろよ」
めきッ
三度、叩き込まれるジークの拳。
飛び散る、血飛沫。
漏れる、アレンの蛙を潰したような声。
「でき……ねぇ。てめぇの攻撃に、収納が、使え……」
ごきっ
骨の砕ける音。
それが周囲に響く。
しかしジークは決して、止まらない。
「収納してやる」
「てめぇの全てを、お前の中に」
呟かれる、ジークの言葉。
呼応し、アレンの【収納空間】にアレンの全てが収納されていく。
それが意味すること。
それは即ちーー
現在過去。
全ての次元に存在する勇者という概念。
それが、目の前のアレンの内に収納されたことを意味していた。
青ざめる、アレン。
そのアレンに、ジークは吐き捨てた。
「なぜ俺がてめぇの身に転生したかわかるか?」
「……っ」
「この収納をてめぇの中に収納してやる為だ。今のてめぇならわかるだろ? 無限に広がる収納空間。それが、己の身の内に存在しているってことが」
震え、ジークを畏れるアレン。
初めて見せた、アレンのジークに対する畏怖。
「後は簡単は話だ。てめぇの中の収納空間にーー」
闇に埋もれた双眸。
それをもって、ジークは腫れ上がったアレンの顔を見据え、嗤う。
「てめぇの全てをまとめて収納してやるだけだ」
「じ、ジーク」
「勇者。てめぇが何百、何千、何億。存在しようと関係ねぇ。まとめちまえば、一つだもんな」
固く握られた、ジークの拳。
そこに収束されていく、漆黒。
それは、ジークの勇者に対するこれまでの思いの込められた混じり気のない殺意と憎悪。
「収納する。この拳に、てめぇに対する全ての感情を」
「他のゴミ共はまだマシだったぜ。てめぇと違って、ひとつの命でこの俺に抗ったからな。高見の見物は楽しかったか? 勇者」
死を悟る、アレン。
しかし、最期にアレンはジークへと問う。
「な、なら何故」
「お、俺はオマエの攻撃を収納できなかったんだ?」
その問い。
それにアレンは答えない。
代わりに、拳を振り上げーー
「感謝しろ、ゴミ。すぐに死ねることを」
咄嗟にアレンは叫ぶ。
「しゅ、収納する俺の死を!!」
しかし、それは届かない。
全力で叩き込まれる、ジークの拳。
途方もない衝撃。
それが世界を震わせ、アレンの身は光の粒子となり消滅。
だがそれも、「収納する。勇者の残滓を」という言葉と共にジークの内に収納。
文字通り、アレンは完全に消え去ってしまう。
そして、ジークは呟いた。
「てめぇが俺の攻撃を収納できなかった理由、か。 それは、てめぇの収納空間の容量。それを少しばかり収納してやったからだ」
響く、ジークの声。
そこには宿っていた。
勇者の最期に対する、愉悦の思い。
それが確かに、宿っていた。