アレンの死①
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「奴を。あのゴミを殺す」
「もう金なんてどうでもいい」
漆黒の闇。
それに身を濡らし、そのモノは瞳孔を開く。
かつて勇者と讃えられし、その者。
しかし、今となっては、勇者の面影は欠片もない。
ジークの転生。
それが解かれ、再びアレンは世界に現れた。
しかし、その身に向けられたのは、憎悪と殺意に満ちた感情だった。
"「アレンッ、罪無き者たちを蹂躙せし貴様はもはや勇者などではない!!」"
"「今更言い逃れなどできぬぞ!!」"
"「世界は既にッ、お前を敵だと認識している!!」"
向けられた、そんな負の感情。
それに、アレンは嗤った。
嗤いながら、自分へと攻撃を加えようとした人間たちを返り討ちにした。
頬に付着した、返り血。
それを拭うことなく、アレンは嗤い続けた。
微かに残る、ひとつ前の己の記憶。
自分ではないナニか。
それに、この身を支配され操られていた感覚。
しかし、アレンには理解っている。
ジーク、ジーク。
あの、ゴミの、仕業。
揺らぐ、漆黒。
響く嗤い。
「あのゴミ。ゴミ。ゴミ。殺す。"この俺"で、終わりにしてやる」
己に流れ込み続ける、負の感情。
それに、アレンは闇に染まっていく。
「同じ土俵で殺ってやる。オマエと同じ闇の立場でヤってやる。誰にも邪魔はさせねぇ。ダレにも、誰にもだ」
死の充満した地。
そこに響く、闇に堕ちた勇者の声。
陰る空。止む風。軋む大気。
その歪み。
それはこの世界に光が消え、闇の存在がもう一つ、現れたことを意味していた。
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止んだ風。
止む、鳥の鳴き声。
それにソフィは感じる。
「ジーク」
震え、隣に立つジークを見上げるソフィ。
「こわい、こわい」
「大丈夫だ、ソフィ」
怯える、ソフィ。
その手のひらを握り、ジークは微笑む。
しかしその目に宿るは、光ではなく闇。
肌に感じる、アレンの気配。
突き刺すような、殺気。
だが、ジークに畏れなど無い。
あるのは、アレンに対する揺らぎない殺意のみ。
「ソフィ。ソフィは俺が守る」
優しい、ジークの笑顔。
だが、ソフィは続けた。
「ジーク、じーく」
「ソフィは。ジークとずっと、いっしょに」
ジークの名を呼び、声を発するソフィ。
その姿。
それはどこか儚く、まるで自分の運命を悟っているかのように悲しげだった。
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