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平穏②

【収納物】

 魚×10


ジークの収納空間。

そこに収納される、10匹の魚。

この力に目覚め、ジークははじめて穏やかな感情で力を使う。


ソフィの為。

ソフィが喜ぶ為。

そして、この平穏を守る為。

ジークは、収納の力を使う。


「収納する」


「水を」


流れる川の水。

それを収納し、「収納する、不純物を」と呟き、川の水を飲用水へと変換するジーク。


そして更に、ジークは力を行使していく。


視線の先。

そこに広がる森を見据え、「収納する。人が食べられる果物を」、そう呟き、ソフィの為に果物を収納するジーク。

その表情は柔らかい。


吹き抜ける風。

それはジークの髪を揺らす。


心地よい風。


「さて、戻るか」


胸中で呟き、ジークはソフィの元へと戻ろうとする。

身体を反転させ、ソフィの笑顔を思い浮かべながら。


歩き始める、ジーク。

そして、その姿を茂みに身を潜め見つめるはカレンの命を受けし魔導士たち。

皆、黒のローブを纏いフードで顔は見えない。


「あの者がジーク」


「うむ。此度の世界の混沌。その元凶」


「しかしあの穏やかさ。やはり、カレン様のお考えは的中した」


「はい。今しばらく、あの者を平穏の中に。世界が安定し、"準備"が整うその時まで」


カレンの言葉。

そして、思い。

それを皆、噛み締め頷き合う。


「カレン様の意思。それに従いこの辺り一帯を人避けの結界で囲う。ジークの心。それが乱れぬように」


リーダー格の者の言葉。

それに他の面々は同意の表情をたたえ、すっと立ち上がり、音を立てずにその場から離れていく。


そして、「あたらぬ神に祟りなし……どこぞの書物で読んだことがある。今のこの状況。まさしくソレだな」そう、胸中で呟き、自らもまたその場を後にしたのであった。


〜〜〜


「うまいか、ソフィ」


「うんっ」


果物をほうばる、ソフィ。

その姿を、ジークは対面に座り見つめる。

表情は穏やかで、優しい。


「ジークもっ」


テーブルに置かれた、数個の果実。

そのひとつを手に取り、ソフィはそれをジークへと差し出す。

微笑む、ソフィ。


「ソフィはもういいのか?」


「うんっ」


「そうか」


笑顔で果実を手に取り、ジークは口をつける。


「うまいな、これ」


「おいしいっ。ジークがとってきたから、もっとおいしい」


「味なんて変わらないだろ。果物は果物だからな」


「かわるっ。だって、ジークの気持ちがこもってる」


笑い合う、二人。


求めていた平穏。

ジークは願う。

この幸せがずっと続くこと。

それを心の底から。


「次は魚でも食べるか?」


「喉が渇いたなら水もあるぞ?」


椅子から立ち上がり、ソフィへと問いかけるジーク。

しかしソフィは、幼い笑顔でジークを見つめるのみ。


「どうした?」


「今、ソフィはしあわせです」


微笑む、ソフィ。

その姿に、ジークは涙ぐむ。


「とても、とても。しあわせです」


「……っ」


涙を堪える、ジーク。

そして答えた。


「俺も、幸せだ。ソフィと、いっしょに」


互いに涙を堪え微笑む、二人。

その光景。それは、温かな光景。

そしてそれは、ジークの本来あるべき現実そのものだった。


〜〜〜

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