平穏①
「できたっ」
色取り取りの花。
それを摘みそして結い、ソフィはひとつの冠をつくった。頬を赤らめ瞳を輝かせ、その冠を胸に抱きしめるソフィ。
鼻腔をくすぐる、花の匂い。
それに、ソフィは儚い笑顔を浮かべる。
平和だった頃の思い出。それを思い出し、ソフィは微かな心の痛みを感じる。
しかし、ソフィはそれをジークには見せない。
「ジークっ」
明るい声。
そして、表情。
それをもってソフィは振り返る。
そのソフィの視線の先。
そこに立っていたのは、勇者の姿から元に戻ったジークだった。
瞳を輝かせ、見知ったジークの姿に頬を紅潮させるソフィ。
「ジーク。できたよっ、おはなのかんむり」
「できたっ、できたよっ、ジーク」
声を詰まらせ、幼い嗚咽を漏らすソフィ。
平和だった頃。何度も言ったその言葉。
もう一度、言いたかったその言葉。
何度も言いたかったその言葉。
〜〜〜
"「じーく。おはな、かんむり。でき……た、よ」"
"「この餓鬼。なに興醒めなことほざいてんだ?」"
"「性玩具の分際で舐めてんのか?」"
虚な眼差し。それをもって、卑しい笑みを浮かべる人達を見つめていたソフィ。
拘束台の上。
手足を拘束され、仰向けに寝かされた格好で。
身体は壊され、心も壊された。
それでもなお、ソフィは温かな記憶に縋っていた。
脳裏に浮かぶ、優しいジークの笑顔。それに、ソフィはずっとずっと微笑んでいた。
いつかまた、ジークに会える。
そう絶望の中で信じ続けて。
〜〜〜
「ソフィ」
「……っ」
夢ではない。
ジークが、居る。
もう会えないと思っていた、ジーク。
ソフィは唇を噛み締め、ジークの元へと歩み寄る。
「かんむり。ジークの」
微笑む、ジーク。
たとえこれが夢であっても、それでもいい。
ジークに。またーー
差し出された、ジークの手のひら。
そこに置かれる、花の冠。
それを受け取り、ジークはソフィを撫でる。
心からの笑顔。
それを浮かべる、ソフィ。
そのソフィの姿。
それに、ジークは呟く。
幸せな現実。温かな光景。
たとえこれが何者かによる策略だとしても、それでもいい。
そう、己の胸中で呟いたのであった。
〜〜〜
「カレン様。ジークに対する、行動。それはいつ程から?」
「相手は既に骨抜き。打って出るのは、今」
水晶玉の前。
そこで腕組みをし、ジークとソフィを見つめるカレン。
その背を見つめ、二人の男女は声を響かせる。
一人は、長身の男。
一人は、小柄な少女。
二人は共に漆黒のローブに身を包み、顔はフードを被っている為、見えない。
その二人に、カレンは答える。
後ろを仰ぎ見、「時期は私が示す。二人は、待機しておいて」、そう声を響かせ、カレンは再びジークとソフィへと目を向ける。
「まだ先。まだ、先。ココネの仇は、まだ先」
呟かれる、カレンの言葉。
そこには宿るは、余裕の感情だった。
〜〜〜
「収納する」
「魚を」
視界にうつる、川。
そこに泳ぐ、魚たち。
それにジークは力を行使する。
それは、ソフィと共に食べる食事の材料だった。