雨の中③
ソフィ。
今度は、守る。
この力でなにがあっても絶対に。
月明かりに照らされた室内。
その中で、ジークはソフィの寝顔を見つめ誓う。
「ジーク。じーく」
自分を呼ぶ、ソフィの寝言。
それに、ジークはソフィの側に歩み寄り、ベッドに腰掛け応えた。
小さなソフィの手のひら。それを優しく握りしめて。
ソフィはそれを握り返し、安心しきった表情で眠る。
それに微笑む、ジーク。
そして、ジークもまた、座ったまま浅い眠りに落ちていったのであった。
〜〜〜
「ジーク。今日は、いいお空」
「あぁ、そうだな」
廃れた村の中央。
拓けた場所に、ジークとソフィは居た。
ジークとソフィ。
二人は隣り合って座り、空を見つめている。
空は青く透き通り、雲ひとつない。
「ジーク」
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
空を見つめながら、ソフィは嬉しそうに声を発する。しかし、その瞳は潤み、なにかを押し殺しているかのようだった。
「ジーク」
「どうした?」
「……っ」
声を詰まらせ、側にあったジークの手のひらを握るソフィ。
そしてその瞳から涙を滴らせながら、ぽつりぽつりと声をこぼしていく。
「いいお空。その下で、みんな、笑ってた。みんな、みんな。ソフィも、笑って。ジークも、ジュリアも」
「そうだな」
「またっ、また。できたら、いいね」
「そう、だな」
ソフィの幼い願い。
そして、そこに込められた思い。
それにジークの瞳もまた潤む。
「ジーク」
「どう、した?」
ぎゅっとジークの手のひらを握る、ソフィ。
そして続けた。
「ずっとっ、いっしょに」
「ずっと一緒だ、ソフィ。ずっと、一緒だ」
ジークの意思のこもった言葉。
ソフィはそれに小さく頷き、涙を拭う。
そして立ち上がり、元気よく声を察した。
「おはなを摘みにいこっ、ジーク」
「かんむり。つくってあげる」
ジークの数歩前。
そこで立ち止まり、儚い笑顔を浮かべるソフィ。
そのソフィの姿。
それに、ジークもまた涙を拭い立ち上がる。
そして、笑顔のソフィの元へと近づき、その手のひらを握る。
「上手に作ってくれよ。腕、鈍ってるんじゃないか?」
「だいじょうぶ。だとおもう」
何気ない会話。
それを交わし、笑い合う二人。
その二人に降り注ぐ、日の光。
それは温かく、穏やか。
そしてその日の光を受けながら、ジークは決意していた。
転生の力。
それをもって、この勇者の身から元の姿に戻るということ。
それを、決心したのであった。
〜〜〜
ソフィがなぜ、生き返ったのか。
そして何故、勇者の姿をしている自身をジークだと理解したのか。
ジークの胸中。
そこに渦巻く、疑問。
それをジークは考えようとする。
収納の力。
それを無理に使えば、ソフィの記憶からその疑問に対する答えが得られるかもしれない。
しかし、ソフィの楽しそうな姿と声。
それにジークは、ソフィに対し無制限に力を行使することを躊躇う。
懸命に花を摘む、ソフィ。
その姿に、ジークは自身の胸に手をあてる。
そして。
「元の姿に」
そう呟き、勇者の姿から元の姿にジークは戻ったのであった。
転生の力。それをもって、己の内に収納されし自身の身体に対して。