転生③
飛び散る、血飛沫。
それを頬を受け、しかしジークの表情は変わらない。
崩れ落ちる村人の身体。
それに一瞥もくれず、ジークは淡々とその足を前へと進める。
勇者の殺戮。
そのあり得てはならない光景。
それを目の当たりにし、呆然と立ち尽くす村人たち。
中にはその場にへたり込み、泣きじゃくる者も居た。
だが、ジークの意思に揺らぎはない。
己の視線の先。
そこで背を向け逃げ出そうとした、初老の村人。
それに照準を合わせ、ジークは言葉を紡ぐ。
「収納する」
「足を」
途端。
足を失い、前のめりに倒れ伏せる村人。
あがる絶叫。滲む、血溜まり。
その血溜まりの中。
そこでもがく、その姿。
それは滑稽以外の何者でもない。
そのすぐ側にジークは現れる。
距離を収納し、一瞬にして。
ジークの気配。
それを感じーー
「たッ、助けてくだされ!! どうかッ、お願いするだべ!!」
死に物狂いで命乞いをする、村人。
「おっ、おらはまだ死にたくねぇべ!! ゆ、勇者さま!! 正気に戻ってくれだべぇ!!」
当然、ジークに聞く耳などない。
手のひらをかざし、「ゴミ」と吐き捨て、魔力を取り出し火球を撃ち放つジーク。
耳障りな悲鳴。
それを響かせ、無慈悲に炎に包まれる村人。
肉が焼け、身が爆ぜる音。
それが響きーー
瞬間。
「ゆッ、勇者様が狂ってしまわれたべ!!」
「はッ、はやく逃げるべさ!!」
「こッ、この村を守ってくださっている傭兵様!! そッ、そのお方を呼んでくるべ!!」
こだまする、村人たちの震え声と焦燥。
呼応し、ひとつの自信に満ちた声が染み渡る。
「勇者様ッ、いや勇者!! 今の貴様は勇者などではなくただの人殺しだ!!」
倣い、村人たちの顔に希望が戻る。
皆その顔に勢いを取り戻し、声の響いたほうに顔を向けていく。
ジークもまた、その方向に視線を向け、声の主を見定める。
果たしてそこに佇んでいたのは、この村の傭兵にしてかつてアレンが「仲間にならないか?」と誘ったほどの強者。
名をカルマンという。
筋骨隆々とした体躯。
数多の場数を踏んだことを物語る、顔の傷。
そしてなにより、その目に宿る灯火は獲物を見定めた捕食者のソレだった。
「かッ、カルマンさまだべ!!」
「カルマンさま!! はッ、はやくあの狂った勇者からこの村を救ってくれべさ!!」
「この通りだべ!!」
カルマンに縋り、勝ち誇る村人たち。
それにカルマンもまた気分を良くし、「あんたとは一戦交えてみたかったッ、来いッ、アレン!!」と、誇らしげにジークを煽ってしまうカルマン。
その足を堂々と前に踏み出しーー
「さぁ、アレン!! はやくかかって」
言い終える前に、ジークはカルマンの眼前に現れる。
目を見開く、カルマン。
そして、次の瞬間。
「失せろ」
短きジークの声。
その余韻と共に、カルマンの顔面に叩き込まれるは天賦の拳。
悲鳴をあげる間。
それもなく爆散するカルマンの顔。
ふらつく、頭なきカルマンの身。
その身にジークは天賦の足で蹴りを入れる。
間髪入れず、一切表情を変えることなく。
そしてカルマンは文字通り、跡形もなくこの世から消え去ってしまったのであった。