転生②
ジークの言葉。
それに生かされた女はしかし、立ち上がることができない。
目の前で繰り広げられた、ジークの力の行使。
身体が鉛のように重くなり、畏れが鎖となり女は動けなくなってしまっていた。
「こ、殺される。みんな、みんな」
眼前のジーク。
その姿に呟き、涙を滴らせる女。
「勇者に、みんな。みんな、みんな、みんな」
「収納する」
「オマエと人の多い場所との距離を」
自ら動くことできない女。
それを見据え、ジークは力を行使する。
呼応し、漆黒に包まれ女はその場から消失。
そしてジークもまた踵を返しーー
「……」
無機質な表情で死の充満した室内を後にしたのであった。
〜〜〜
勇者に救われた街や村。
その場所をジークは知っていた。
ゴミのようにこき使われ、ずっと【荷物持ち】として同行させられていたのだから。
外面だけは良かった、アレンとその仲間たち。
魔王討伐に至るその日まで幾多の街や村を救い、自分たちに対する尊敬と信仰を高めていった。
しかしそれは全て、平和になった後の世界で私腹を肥やすための布石に過ぎなかった。
だから、こそ。
ジークは心に決めていた。
勇者の功績を全て無にし、そして勇者を魔王に代わる悪に仕立てあげるということを。
漆黒に包まれ、ジークはソコに現れる。
勇者が救った村。
夜な夜な畑を荒らす魔物を討伐し、長閑な生活を保障された村。
そしてジークの耳に聞こえてくるのは、村人たちの楽しそうな声。
「この村の平和。これも全て、勇者様のおかげだべ」
「んだ、んだ」
「あのお方がなされたことは全て正しいに違いねぇべ。勇者の命で滅ぼされた村。あそこはきっと魔物の巣窟に違いねぇべ」
「そうだべ!! 人の皮を被った魔物が居たに違いねぇべさ」
勇者を心から信仰し、勇者の下した意思を未だ賛美し続ける村人たち。
しかしジークは知っていた。
魔物がこの村を襲っていた、理由。
それはーー
"「この村。元は魔物の住処だったらしいぜ。それを人間が奪い、魔物たちを虐殺し、この村が出来た。でだ、今この村を襲っている魔物の正体。それは」"
「そのトキ。親を殺されたガキの魔物」
あの時のアレンの言葉。
それを呟き、ジークはその足を前に進めていく。
アレンの姿で。
その殺意を隠すこともなく。
「ん? あれは」
「勇者様だべ!!」
勇者の姿。
それを見定め、ぱっと笑顔になる村人たち。
「子どもたちを呼んでくるべ!!」
「歓迎会を開くべ!! 今すぐ酒とッ、食べ物の用意を!!」
「勇者さまッ、久しぶりだべな!!」
「相変わらず凛々しいべ!!」
朗らかにジークの元へと駆け寄ってくる、村人たち。
だが、村人たちは気づかない。
勇者の手。
それが闇に包まれていくのを微塵も。
そして、村人の一人がジークの眼前に辿り着き勇者の身体に触れようとした、瞬間。
それは起こる。
「さぁッ、勇者さま!! ごゆっくりしていってーーッ」
「死ね」
闇が剣となりーー
ジークの眼前の村人は、笑顔のまま、その首を刎ねられたのであった。