剣聖③
「ランスロット様」
場を後にした、ジーク。
その余韻が残る中、コルネは声を響かせる。
しかしその声音は震え、そして未だ己の脳裏に残るジークの姿にコルネの表情に生気はない。
身を震わせる、コルネ。
だがその震えを抑え、コルネは声を絞り出していく。
「あの者。ジークをこのままに?」
周囲に転がる、ジュリアとイライザの亡骸。
それを虚な瞳で見つめ、コルネは更に続ける。
「ジーク。あのモノは魔王の力を己の内に内包。勇者を殺すという目的。それを達したとしても……あの敵意と殺意。それが収まるとは思えません」
「あぁ」
コルネの言葉。
それに同意し頷く、レオン。
「コルネの言う通りだ。それに」
「俺は未だ信じられねぇ。なにがって? あの小娘が此度の魔王だったことがな」
幼き少女。
漆黒を纏い、嬉々としてジークに収納されしランスロットが魔王と称したその存在。
ランスロットの側。
そこで様々な見聞に触れた、レオン。
だからこそ、モナが魔王だということにレオンは未だ疑問を抱いていた。
「俺が聞いた魔王の姿。それはあんな小娘じゃない。コルネ。お前もそう思わないか?」
「はい、そう言われてみれば。見聞の時の記憶。それを辿ればーー」
その二人の疑問。
それをランスロットは澄み切った声で遮った。
「転生」
二人に背を向け、言葉を響かせるランスロット。
「勇者により討たれた後、奴はモナという名の少女の身に」
「転生」
「モナという名の少女に」
ランスロットの答え。
それを二人は反芻し、静かに頭を下げた。
差し込む陽光。
それに三人は照らされ、それぞれの思いを押し殺す。
転生した魔王。
そしてその力をその身に内包した、ジーク。
もはやランスロットの力はジークに及ばない。
しかし、ランスロットは三度、その剣を抜く。
そして、声を響かせた。
「世界は如何様に。だが、この命ある限り」
そのランスロットの声。
それにコルネとレオンもまた、その瞳に光を宿し深く頷いたのであった。
〜〜〜
「転生する。勇者の身に」
剣聖の聖堂。
そこから外に出、ジークは呟く。
闇を帯びた風。それに髪を揺らし、無機質な表情を浮かべながら。
収納せし、魔王の力。
それをジークは行使する。
ランスロットの言葉。
勇者を存在と言ったあの言葉。
それに、ジークはこれまでのやり方を変えることを決意していた。
その方法。
それはーー
「勇者を世界の悪とする」
ジークが勇者の身に転生し、勇者の姿で世界を混沌に陥れるというもの。
勇者は悪。
そんな思考を世界に植え付けることができたなら、世界は自らの手で勇者の討伐にその舵を切ることになる。
勇者に対する信仰。
それを全て収納するという手もある。
しかしそれでは、勇者は悪という考えは植え付けることはできない。
漆黒に包まれる、ジークの身。
そしてジークは【転生】の力をもって、勇者へと転生し自身の身体を己の内に収納したのであった。
〜〜〜
とある冒険家ギルド。
そこに声が響く。
「あっ、勇者様だ」
「おーい、勇者様!!」
何人目かのアレン。
その勇者に駆け寄る、冒険家たち。
しかしその者たちは気づかない。
アレンの目。
そこに宿るのは、ジークの殺意だということを。
「収納する。慈悲を」
呟き、ジークはアレンの身でその慈悲を無くす。
そして、駆け寄り笑顔を浮かべる者たちをーー
「死ね」
と吐き捨て、その命を無慈悲に収納したのであった。