収納するモノ②
「がはッ」
叩き込まれた、ジークの拳。
それに血反吐を吐き、その場に両膝をつくザール。
腹には穴が空き、もはやザールの生存は絶望的だった。
その顔面。その、ザールの死にかけの顔。
それを見つめ、ジークは吐き捨てる。
「さっさとシね」
メキッ
同時に顔面に叩き込まれる、ジークの拳。
それに倣い、顔面は粉々に砕けあたりに飛び散る。
ぐちゃっ。と音を立て、前のめりに倒れ伏せるザールの巨漢。
その巨大な背に足を載せ、ジークは辺りを見渡す。
そして、声を響かせた。
「隠れてるのはわかっている」
己の胸中。
そこでジークは、更に力を行使する。
「収納する。森の木々を」
瞬間。
草原を取り囲む木々が闇に包まれ、収納される。
そして、姿を隠しザールとジークの一部始終を見つめていた面々が白昼に晒されてしまう。
「……っ」
後退りをする、傭兵団。
双剣のディルクもまた息を飲み、ジークを見つめることしかできない。
「アレン様の、傭兵団」
呟かれる、ジークの言葉。
そこに込められているのは殺気。
数はおよそ、10。
数的にはジークより圧倒的に有利。
しかし、ディルクは悟っていた。
勝てるわけがない、と。
「くッ、くそ!!」
「ザール殿とエレン様の仇!!」
「アレン様の傭兵団としてッ、ここで引くわけにはいかない!!」
自らを奮い立たせ、ジークへと向かっていく面々。
しかし、ジークは一切動じない。
「収納する。お前たちの戦意を」
瞬間。
数秒前まで血気盛んだった面々。
その全員がその場にへたり込み、ジークに対する戦意を喪失。
皆、ガタガタと震えジークに対する畏怖で身動きが取れなくなってしまった。
「し、死ぬ」
「か、勝てない。あんな化け物に俺たちなんか」
「こ、怖い。怖いよ」
ごくり。
と唾を飲み込む、ディルク。
そのディルクに、ジークは声を投げかける。
「アレンにツタえろ」
「てめぇは、最後のお楽しみだ。精々、待ってろ。サイゴの一人になる……その時まで。ってな」
同時にアレンは放り投げる。
ザールから引きちぎった顔面の抉れた首。
それをディルクに向け、ゴミを投げ捨てるように。
「ソレは土産だ」
「勇者様、喜ぶだろうよ」
無機質なジークの顔。
返り血を浴び、しかし無表情のその表情。
それにディルクは、半狂乱になりその場から立ち去る。
ザールの首。
それを抱え、ディルクは「勇者様ッ、勇者様!!」と情けなく泣き喚きながら。
倣い、他の面々も絶叫をあげその場から逃走していく。
まるで蜘蛛の子を垂らすように。一心不乱に。
その光景を見つめ、ジークは呟く。
「ここに、故郷をツクろう」
「壊滅した故郷。それを収納し、ここにモッテこよう」
笑う、ジーク。
その笑い声。
それは壊れた人間の笑い。そのものだった。