剣聖①
ジュリアの死。
それを見届け、響くは小声。
その小声は震え、まるで狩人に追われる獲物の鳴き声そのもの。
「じゅ、ジュリア様。ど、どうしてこのようなことに」
「ゆ、勇者様。お助けください、勇者様。闇が、闇が。世界を包んでしまい、ます。しゅ、終焉。世界の終焉。叙事詩に書かれていた、終焉。これが、そう。なのですね」
そんな譫言のような呟き。
それに、ジークは仰ぎ見る。
真っ二つ遮断された石柱。その方向を。
ジークの視線。
イライザはそれに気づく。
そして、悲鳴をあげた。
「みッ、見ないでください!!」
半狂乱になり、石柱の陰から飛び出すイライザ。
「助けてッ、お助けください!! 誰かッ、誰か!!」
響く、イライザの声。
それは反響しーー
刹那。
めきッ
「ぁぐっ」
捻転する、イライザの両腕。
同時に響く、幼く無機質な声。
「ダレも助けてなんかくれない」
「ダレも、誰も」
「ワタしもそう。ダレもわたしを」
身を起こす、少女。
揺れる青髪。そして、イライザ見据える双眸に宿るは闇。
その姿。
それに、ランスロットは剣を向ける。
倣い、レオンとコルネもまた少女へと意識を向けた。
めきッ
ごきッ
「た、助け……だれか」
手を捻られ、ふらふらとジークの元へと歩み寄るイライザ。
その顔に生気はない。
あるのは、痛みと得体の知れぬ力に弄ばれる絶望に満ちた表情のみ。
ぶちぃッ
捻り切られ、落ちるイライザの腕。
それでもイライザは、歩みを止めない。
その瞳から涙をこぼし、「勇者様。ゆうしゃ、さま。たすけ、たすけて、ください」と、霞む視界に佇むジークに勇者を重ね、声を響かせるイライザ。
「たすけ。たす、け」
しかし、それを遮るはジークの意思。
死に体のイライザ。
それに手のひらをかざし、ジークは呟く。
「収納する。命を」
ジークの数歩先。
そこで動きを止め、瞳から光を無くすイライザ。
そして、糸の切れた人形のように、イライザはその場に崩れ落ちる。
呼応し、響く嗤い。
その嗤い。
それは、人のソレではない。
モナから距離を置く、レオンとコルネ。
二人はジークからモナへと意思を向け、その表情を引き締める。
「モナ。といったか?」
「ぜんぶ、ウソ」
ランスロットの声。
それに呟く、モナ。
「ぜんぶ、ウソ。ぜんぶ、ぜんぶ。ウソ。ゆうしゃに頼まれたなんて。ぜんぶ、うそ」
くるりと身を翻し、モナは両手を広げる。
「ワタシは、闇」
「ジーク。ジークと同じ、闇」
「ゆうしゃのなかま。わたしをコロしたモノたちの死」
「それで、それで。ワタシは」
瞬間。
「遮断」
短き一言。
それと共に、剣聖の一太刀がモナへと放たれる。
軽く振るわれた、青白く輝くランスロットの剣。
それは白銀に彩られたーー
あらゆるモノを遮断せし剣聖の力。
それにジークもまた、続く。
モナに手のひらをかざし、「ゴミ」と吐き捨て、ジークはその手に握った漆黒の剣を投擲したのであった。